加治木工vs鹿児島玉龍
勝因は「切り替える力」
お互い我慢の展開をものにできた勝因を、加治木工・上野力監督は「ミスがあっても下を向かず、しっかり次のプレーに切り替えられたこと」に挙げる。
バントを使わず、積極的に打ったり、盗塁でつなぐ野球が身上だが、この日は拙攻続きだった。
2回二死二塁では、二走が不用意に飛び出して捕手からの送球で刺された。4回には5番有村拓斗(2年)のライト線二塁打で先制はしたが、その直後の大迫啓太(3年)のセカンドライナーを二塁手が落としたのをみて、二塁走者が慌てて三塁に走ってアウトになっている。
こちらのエース上原滉平(3年)が好投を続けて相手を抑えてはいたが「こういう展開だから、ミスを引きずって下を向いたら、絶対にやられる。『切り替えて次のプレー』とずっと言い続けていました。ベンチでも選手同士お互いに声を掛け合って雰囲気を盛り上げていた」と上野監督は語った。
左腕・上原のフォームはスリークオーターで、左打者は背中からボールが来るような錯覚を覚える。
右打者は内角に食い込んでくるボールを持っている。ストライクゾーンをワイドに使って「打者に的を絞らせない」(上原)持ち味の投球が冴えて、鹿児島玉龍打線に三塁も踏ませなかった。
上原の好投にも「切り替える力」が生きた。終盤なると制球を乱して自滅する悪い癖が7、8回とのぞきかけた。8回二死から2人の走者を出し、上野監督は廣山心大主将(3年)を伝令に送る。
「打たれて同点はOKだから自分の投球をしよう」
開き直って次打者を空振り三振で切り抜けた。
マウンドに集まった野手の姿は「みんな笑顔で余裕があった」と廣山主将は言う。
41年ぶりのベスト4入りだったが、喜びを爆発させず、ひとしきり勝利の喜びを満喫すると、淡々とクーリングダウンをしている姿が印象的だった。
「まだあと2試合残っていますから」
主将の言葉は次を見据えていた。
(文=政純一郎)