鎮西vs東海大二
柿原翔樹(鎮西)
エースで4番
昔でこそ、よく耳にしたことだが、近年、強豪校に「エースで4番」という大黒柱がどれほどいたことであろうか。しかも好左腕・林健太、強打者・白川大貴らタレントが揃う布陣でのことだから、なおさら箔が付く。鎮西が誇る4番・柿原翔樹のことである。
柿原は、中学時代から140キロ超の怪腕と騒がれていたが、高校入学直後から鎮西の4番に座るなど野手としてその才能を開花させていた。そして、豪快なフルスイングで本塁打を積み重ねること35本、気が付けば野手として今秋のドラフト候補の一人に上げられている逸材である。
そんな柿原だが、今年の6月にチーム事情から中学以来の投手というポジションに再びコンバートされた。もちろん、背番号は1。いわゆる“エースで4番”である。
「柿原が投げると勝てるんですよね。野手もみんな信頼していますし」という江上寛恭監督の言葉通り、4月末の練習試合では宮崎日大の武田翔太と投げ合い完封。
NHK旗でも専大玉名と秀岳館を1失点に抑えたように不思議と相手打者は差し込まれる。それは球速以上に手元で伸びてくる球筋もさることながら、自ら「ピッチャーは楽しい」というようにマウンド上で野球を存分に楽しむことができるからではないだろうか。
140キロ後半のスピードボールを投げるわけでも、精密機械のようなコントロールがあるわけでもない。
それでも野手陣と奏でる抜群のリズムで、気が付けば勝利。
この日も130キロ中盤のストレートを投げたかと思えば、90キロ前後のスローボールを投げたり、腕の角度やタイミングをずらしたりと多彩なピッチングで打者を幻惑させていた。
江上監督が「3種類くらいにしか見えないんですね」と笑うが、本人曰く10種類の変化球を操っているという。
カーブ、スライダー、カットボール、フォーク、シュート、シンカー、ツーシーム、ナックル、パームボール、そして重いストレート。
七色の変化球どころか、まさに十色である。
それだけではない。この試合でもみせたように天性のセンスというか、野球勘は天下一品だ。
例えば、9回1死からセンター前に抜けようかした打球をマウンドで横っ跳び。投手である自らの気迫溢れるファインプレーで、ユニフォームを真っ黒にしながらも投ゴロに仕留めたように。
エースで4番として、投げて打って、負担も大きいはず。もちろん、半端ないスタミナも兼備するが、夏を勝ち上がるために自分の凄みを見せないでチームのためにリズムを作ることができる。
ある意味、これも凄みではないか。
エースで4番、柿原翔樹。4回戦を終えたところとはいえ、彼の夏は始まったばかりだ。
(文=編集部:アストロ)