試合レポート

履正社vs福知山成美

2014.04.01

序盤から履正社ペース 近畿勢相手に強豪ぶり発揮

 近畿大会では強豪ぶりを遺憾なく発揮する履正社だが、甲子園大会になると早い段階での敗退が目立つ不思議なチームだった(これまでの最高成績は2011年選抜のベスト4)。関東で言えば2013年に優勝する以前の浦和学院がそういうチームだった。
 重要なのは「近畿大会では強豪ぶりを発揮する~」という部分で、2回戦駒大苫小牧を撃破、準々決勝の相手が同じ近畿の福知山成美になったところで履正社の準決勝進出を予想する声が漏れ伝わってきた。実績で優位に立つ近畿勢相手なら負けるわけがない、そんな声である。

 試合は1回から履正社が優位に運ぶ。一死二塁から3番吉田 有輝(3年)がセンターを越える三塁打を放ってまず先制。2回には四球を挟んで5本の長短打をつらねて4点を加え、完全に主導権を握った。
 福知山成美の左腕・石原 丈路(3年)は縦に落ちてくるカーブに威力があり、これに横変化するカットボールのようなスライダーを備え、1回戦では山梨学院大付を5安打、2失点、2回戦の神村学園を5安打完封に抑えた。

 この石原に対し、履正社はストレート系のボールに狙いを定め対抗した。吉田が放った2つの三塁打は1回が何の変哲もない123キロのストレート系、2回が133キロのストレートだった。90キロ台の角度十分のカーブがあるのだから、これを多めに配球して緩急を作っていけば130キロ台前半のストレートを表示以上に速く見せることは十分に可能だったはず。序盤はストレートがいかにも多すぎた。

 履正社の先発・溝田 悠人(2年)は9回1死までノーヒットノーランを続けた1回戦の小山台戦より投げ方がよくなっていた。このときは上体をねじって肩を振って、現在の松坂 大輔(メッツ)のような投げ方に特徴があったが、この試合では肩の振りを抑え、コンパクトなフォームでボールを正確にコントロールした。
 ストレートは最速139キロを計測し、小山台戦(レポート)を上回ったが、配球の軸にしたのは変化球のほう。たとえば6回には12球投げてストレートはわずかに3球だった。7回にはストレート6、変化球8と緩急を操り、福知山成美打線を翻弄する。8回に3連打され、マウンドを永谷 暢章(2年)に譲ったが、4強進出の立役者は間違いなく溝田である。


 福知山成美で惜しかったのは2、3回の得点機を逃したことだ。走者を一、二塁に出しながら2回は大村 凌(2年)がショートライナー、3回は西田 友紀(3年)がセカンドライナーで併殺されてしまう。「たら・れば」は勝負の世界では禁物とわかっていても、このとき得点できていればもう少し競った展開になっていたと思う。

 履正社の2番手、永谷はスカウト的に言えば今大会の救世主だった。本格派が少ない今大会にあって、2回戦駒大苫小牧戦(レポート)でストレートが最速147キロを計測。ソフトバンクの永山 勝アマスカウト部長は「最後にいいものを見せてくれました」と笑顔で[stadium]甲子園球場[/stadium]をあとにした。

 投球フォームはかなりクセが強い。バックスイングに行きながら顎が上がり、それと同時に上体が猛烈に反りかえる。ここからの投げ下ろしで、ストレートは低めに糸を引いたように伸びていくのは背筋の強さの賜物である。
 変化球は117、8キロの縦に割れるスライダーがあり、130キロ台後半で小さく変化するのはツーシームだろう。ストレートがよくて変化球はそこそこ、という投手が多い中、両方備えている投手は少ない。それでいて同じ2年の溝田 悠人にエースナンバーを譲っているのは、直曲球の威力が長く続かないからだ。

 駒大苫小牧戦(レポート)では3回途中からマウンドに上がり、当初快調に飛ばしていたが、6回あたりからストレートの球速が目に見えて下がり始めた。私はノートに「ストレートに緩急をつけるといい」と書いた。
 そしてこの福知山成美戦である。8回無死一、二塁の場面でマウンドに挙がると3番佐野 友亮(3年)を三塁ゴロ、4番前田 涼太(3年)を三塁ファールフライに打ち取り、5番西元 正輝(2年)はセカンドのエラーで得点を許してしまうが6番藤田 大成(3年)をストレートで三振に斬って取り、火が点きかけた福知山成美打線を最少失点に抑えた(イニングの失点は2)。

 ストレートの球速は最速で144キロと抑え気味だった。150キロ近い数値を期待していた当初は物足りなかったが、「ストレートに緩急を~」と書いたことを思い出し、今はわずか1戦の経験だけでこれだけ工夫を凝らすようになったのかと高評価している。
 準決勝の相手は好投手、田中 空良(3年)率いる豊川。田中のスライダーと永谷のストレートが真っ向から勝負する場面が見られるかもしれない。

(文=小関順二

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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