22年ドラフト注目度NO.1。二刀流・矢澤宏太(日体大)を飛躍させた元プロコーチのアドバイス【後編】
11月19日。現地時間では11月18日、MLBは今季のMVP受賞選手が発表されました。二刀流として活躍した大谷翔平が見事にMVPを獲得した。
そんな中、大学球界で高レベルの二刀流を成し遂げているのが日体大の矢澤宏太ではないだろうか。
173センチ70キロという体格から最速150キロの速球を武器に首都大通算7勝、打者としても4本塁打をマーク。外野手、投手でベストナインを一度ずつ獲得しており、逸材が多い大学3年世代でもトップレベルのプレイヤーだ。後編では、大学でも二刀流として活躍できるルーツについて迫りたい。
古城監督のススメで始まった大学でも「二刀流」
矢澤 宏太(日体大)
二刀流・矢澤の投手人生の始まりは小学校からだった。町田シニア時代、エースで打順も1、3番を務め、投打の柱として活躍を見せた。藤嶺藤沢に進むきっかけは、小学校時代から西武などで投手として活躍した石井貴さんに野球教室を通じて教えてもらう機会があったこと。また町田シニアの当時の監督が藤嶺藤沢出身だったこともあり、進学が決まった。
藤嶺藤沢在籍時、石井さんも臨時コーチとしてチームに関わっており、特に学んだことといえば、「怪我をしない」ことだった。大学野球では特別な立ち位置となる「二刀流」。矢澤にとって勝つためにはどちらも練習することは当然だと思っていた。
「勝つために、両方極めていて、普通にやってきた感じです。高校でしたら当たり前な感じでした」
矢澤の代名詞であるフルスイング。矢澤によると小学校から意識して行い、中学校、高校とコンタクト力が高まり、2年秋から急激に本塁打が増加し、最終的に高校通算32本塁打に到達。投げては最速148キロで三振を量産。打者としても評価され、2018年度の神奈川を代表する左腕となり、NPB各球団のスカウトが熱い視線が注がれた。最後の南神奈川大会では、準々決勝で横浜創学館に敗れ、さらに大量失点を喫し、満足いくパフォーマンスはできなかった。
そして運命のドラフトでは指名漏れとなり、すぐに日体大進学が決まった。この進学は古城監督の誘いが大きかったようだ。
「ドラフトの指名漏れをした次の日に古城監督さんのほうから、藤嶺藤沢まで来てくれて、監督と話をしてくれたみたいで。その前から、日体大の方が教育実習にきてくれていて、17年に日本一になった時の話を聞かせてくれました。
プロに行けなかったら日体大に行きたいとは思いっていました。ドラフト終わって、次の日の朝に来てくださったので、日体大行くぞという気持ちになりました」
また大学でも二刀流が決まったのは古城監督の進言からだ。
「チームに合流した時、最初はどっちやりたいと聞かれて、僕はチームに従いますと言いましたが、『どっちもやろう』とそこから始まりました」
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矢澤 宏太(日体大)
投打ともに高いポテンシャルを持っていた矢澤だったが、どちらも能力を発揮するのにしばらく時間がかかった。打撃については、同級生のほうがレベルが高いと思っていた。それでも次第に木製バットに慣れていくと、打球が飛ぶようになった。1年秋のリーグ戦で初本塁打を記録する。
「先頭打者ホームランだったのですが、入ったなーという感じで、スイング自体はいつも通りフルスイングのような強いスイングをしたので、当たれば入ると思っていたのですが、入った時は嬉しかったです」
投手として結果を残せるようになったのは、中日の投手だった辻孟彦コーチの進言が大きい。制球力に悩む矢澤だったが、辻コーチからは「小さくまとまるな」と言われ続けてきた。
「高校の時はコントロールが悪くて、今でもいいわけではないですが『そこを気にして小さくなっちゃダメだぞ』という事を言われてきましたし、例えば試合でストライクが入らずに四球をたくさん出してしまった時も『そこで軽く投げて入れにいっても自分のためにならない。いくら四球を出してもいいからしっかり腕振って投げろ』と言われてきました」
「そのおかげで段々とそこらへんに球が行くようになりましたし、試合でも四球は出しますけど、2つとかで1試合投げきれるようになってきました。小さくまとまるなという風には言われるので、そこは入った時からずっと意識していました」
思い切って投げる中でもどういう感覚で投げればストライクゾーンに収められるかを理解できた。その中で、自分の理想の投球フォームを実現するためにキャッチボールから強く意識をしている。
「キャッチボールとかでその日その日のバランスを確かめて、準セットポジションで投げるのですが、セットポジションのスタンスの幅を変えたり、足をクロスさせたり、まず立つところから確認しています」
そういう中で、自分の投げる感覚を掴むことができてきた。
「自分で力を入れる部分と、抜いていても力が入る部分を自分の中で分けていて、腕を振るというよりは振られるというような感覚で投げています」
自分の思い通りの感覚で投げて投球をコントロールし、さらにトレーニングや投球練習で確立したことが投手としての飛躍につながったのだ。そして矢澤は大学代表候補合宿に参加し、自慢の快速、打撃をアピールしている。11月の取材ではこう意気込んでいた。
「高いレベルの選手と一緒にやれる機会なので、いろんなものを吸収して、コミュニケーションとって、自分のためにいい機会にしたいです」
濃密な経験を積んだあとに来シーズンの目標は定まった。
「去年外野手としてベストナインを取ることができて、今年も投手としてベストナインを取る事ができたので、来年は首位打者を取りたいですし、最優秀投手というのも取りたいですし、リーグ戦のMVPも取りたいと思っています」
そして指名漏れに終わった高校時代。矢澤の目標は決まっている。「ドラフト1位でプロに行くことです」。そのポテンシャル、意識の高さは十分に備わっているだろう。果たして22年は「矢澤の1年」になるのか、大いに注目だ。
(記事:河嶋 宗一)