川越東vs宇都宮
秋へ向けて川越東と宇都宮も、一つひとつのプレーを大事にしながら調整
宇都宮・堀越健太君
特別な夏を経て、秋の新チームがスタートしているが、今年はどこも例年通りの形ではない。4月、5月に授業が休校となった影響で、1学期が延長されたところがほとんどだ。野球だけではなく、高校生のすべての競技大会は中止となった。そんな状況だから、当然のことながらその後の新チームのスタートも、ほとんどの学校では遅れ気味となっている。さらには、二学期のスタートも早まったりということもあり、本来ならばじっくりとチームを練り上げていく時期の夏休みの練習が十分ではないというのは現実だ。
ことに、遠征試合などは、コロナの影響もあって、地域によってそれぞれの事情も異なっており、なかなか組みにくいということもあったようだ。川越東の場合でも、先週末からやっと対外試合を始められる状態になったという。実は、この日がやっと4カード目だという。この日は川越市の川越東の第3グラウンドと呼んでいる専用球場に栃木県の進学校・宇都宮が訪れていた。
連日、35度を越える猛暑が続いている埼玉県川越市。川越東の野中祐之監督からは前日に、「川越市はとりわけ暑いので、熱中症対策を十分にしてお越しください」という連絡を戴いた。確かに、うだるような暑さだった。軽く35度を越えているのだが、「今日はまだ、風があるのでいい方だ」ということだった。
そんな中での試合である。宇都宮は創立143年という栃木県を代表する超伝統校である。伝統の野球部としては「文武不岐」というモットーを掲げている。昨秋も、県大会ベスト8だったが、日頃の野球への取り組み姿勢と、ボランティアでの地域貢献なども評価されて21世紀枠の県代表校として推薦を受け、その後の選考で関東推薦校として候補9校にも残った。篠崎淳監督は、前任の母校宇都宮南時代には、2004~05年夏、2008年春など甲子園に導いた実績がある人物だ。
その篠崎監督の、日体大での1年先輩にあたるのが川越東の野中監督である。そんな間柄でもあり、お互い前任校の時代からよく練習試合を行っており、毎年ほぼこの時期に試合を組んでいる。今年はコロナの影響でどうなるのか心配されたが、学校の許可が出て実施されることとなった。
お互いに男子校ということで、今の時代の高校野球としては珍しく、女子生徒の姿はまったくないという中で試合は行われた。
川越東・新井大悟君
川越東は栄東、開智と並んで埼玉県の私学新御三家と呼ばれている進学校でもある。昨季は野球部の卒業生が東京大に合格するなどの実績も上げている。野中監督は、野球だけではなく、野球を通じて生徒たちが何を得られるのか、何を学んでくれるのかということに重きを置いた指導方針でもある。もちろん、大会は勝ちたいという思いはあるものの、勝利第一主義に執着するものではないという方針でもある。
宇都宮も、進学校でもあり環境としても限られているというところもある。そんな両校の対戦だった。
「やはりエースとして引っ張っていく投手は何試合かに一度は完投をしないと」という野中監督の考えもあるが、川越東の先発新井大悟君は立ち上がりからいいテンポだった。7回までは宇都宮打線に三塁を踏ませない好投だった。
しかも、初回に四球と内野安打に相次いだ暴投などで4点を貰ったということもあって落ち着いた投球で8回の1失点のみで、この日は128球で完投した。この暑さの中でスタミナも十分だということも示したと言っていいであろう。
宇都宮は篠崎監督が、「元々は投手ではなかったけれども、しっかり鍛えていけば何とかなっていくのかなぁと思い、背が高いし投手として起用してみようと思った」という187㎝の堀越君が先発したが、初回の立ち上がりにちょっとバタバタしてしまい自滅気味に失点したのが悔やまれる。角度のあるストレートがしっかり決まっていくようになれば、打者としては目線も難しいし、そうは打たれないのではないかという印象ではあったが、投手としてはまだまだ粗削りというところも否めないであろう。ただ、経験を積んでいく中で、ひょっとしたら好投手として成長していきそうな要素は十分だ。
川越東は、2試合目では1番一塁手として入っていた神保君が6打数5安打で、三塁打2本と二塁打1本の10塁打と大活躍。また、6番に起用された石田尾龍之裕君も二塁打と本塁打を放つなど気を吐いた。そして、投げては3人目としてマウンドに立った伊藤匠海君は、長身左腕でクロスに入ってくるストレートなども磨いていけばかなり打ちにくい投手となりそうだ。野中監督も伊藤君に関しては、「まだ1年生なので、これから経験を積んでいけば、どんどん成長していってくれそうなので楽しみ」と期待は高い。父親も、190㎝ある人だということで身体の成長伸びしろもまだまだありそうだ。
宇都宮は2年生12人、1年生10人で新チームは総勢22人という小ぢんまりとしたチーム。今年の3年生も6人だったし、進学校でもあり少人数で効率よく考えながらの練習をしていくというスタイルでもある。そうした中で、それでも個々が試合を通じて精度を上げていきながら学んでいっている。部活動という範疇の中で、自分たちの可能な限り上を目指していきたいという姿勢。まさに、高校野球のプロトタイプ(原型)といってもいい存在でもある。21世紀枠の推薦校としての意味は十分に納得させられるものはあった。
(取材=手束 仁)