Column

東海大学菅生高等学校(東京)【前編】

2015.02.24

 昨年の秋季大会優勝を決め、16年ぶりの選抜出場を果たした東海大菅生。躍進のきっかけは、昨年の春季大会後から始まった。それまでの指導のスタイルを変えたと話す若林 弘泰監督から、春季大会後の指導の変化と秋季大会を振り返ってもらった。

プロは任せるもの、高校野球は自分から動くもの

若林 弘泰監督

 昨年の春、日大三に0対12の5回コールドで敗れた東海大菅生試合レポート)。率いる若林監督は、指導で選手への接し方を変えた。1991年ドラフト4位で中日に入団。1997年まで6年間プレーをしていた若林監督はプロの指導スタイルを参考に、ノック、メニューの組み立てはコーチに任せていた。

「プロのコーチは、かなり責任が大きいものです。例えば投手の起用はすべて投手コーチが決めます。先発、2番手というのはコーチが決めますね。まあ、最終的には監督が決めるんですけど。でもコーチの提案で動いていくものです。

 僕も、コーチには責任をもって指導をしてもらいたいので、コーチに考えさせていました。ただ、(昨春)5回コールド負けをして、この指導は違うのかなと思っていて、選手と距離があったと考えるようになりました。春が終わってから、自分からノックを打って選手たちに声をかけようと思いました」

 出来るだけ選手と心を通わせようと、自ら選手との距離を縮めていった若林監督に、チームは徐々にひとつになっていった。夏の大会では快進撃を続け、準決勝では日大三から4点差を逆転して、春のリベンジを果たし、見事、決勝に進出。
若林監督は、「それだけがすべてではないですが、ただ高校野球は、監督が前に出た方が良いかなと思いました」と振り返った。

 選手たちはどう感じたのだろうか。ある選手に聞いてみた。
「自分は監督さんとの距離が近いように感じましたね。近くで接しようとしてくれますし、春が終わってから 監督との距離が近くなって、良い雰囲気で試合に臨めるようになったと思います」

 若林監督と選手との距離が近いと感じたのは、取材日に行われた往復ダッシュの時である。ホームベースの位置に合わせてスタートをして、レフトのフェンスまで走って、再びホームに戻る。これを35秒以内に戻らないといけない。このタイムを測っていたのが、若林監督だった。監督はタイムを測るだけではなく、選手に冗談を言いながら、場の雰囲気を盛り上げていた。

 こういうトレーニングは監督は前に出ず、コーチやトレーナーに任せるイメージがある。しかし監督が出て、タイムを測ることになれば、選手は一切の手抜きが出来ない緊張感も出る。また、監督が前に出て叱咤激励すれば、選手との距離は縮まっていくだろう。
勝つ上で、選手と監督の信頼関係は高校野球に限らず、どのスポーツでも大事なことだ。

 ちなみにプロでの経験が生きていることも多いという。
「かなり経験は生きていますね。一流の方は、うまくなるために徹底的に研究をしますよ。僕もプロになってから野球の知識を一番覚えました」

 ある選手に若林監督の指導についてどう感じているのか聞いてみた。
「やっぱり野球に対しての考え方が違うと思いました。一つのことに対して、『こういうところまで見ているのか』、『こういう考えをしているのか』と新鮮な気持ちになりました」
そこに感銘を受けた選手たちは、若林監督の言葉に真剣に耳を傾けている。

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正捕手を替えたことが一つのターニングポイント

勝俣 翔貴選手

 そして話は秋季大会に戻る。東海大菅生にとって大きなターニングポイントとなったのは、「國學院久我山戦(試合レポート)から正捕手を斎藤 駿汰にしたことですね」と若林監督は語る。2年生の正捕手。それまでは1年生の東海大菅生高橋陸が出場していたが、齋藤が出場するようになったきっかけはエース勝俣 翔貴の進言だった。

「大会2日前ですよ、勝俣が私に『大会の捕手は齋藤にしてください』と言ってきたんです。最初は驚いたのですが、認めました。僕も投手だったので、相性の良い捕手と組みたい気持ちは分かります。僕の中で不安だったのは、斎藤は経験が少なく、公式戦で起用することに不安がありました。ただこの時、高橋もやや調子を落としていたこともあって、変えることに大差はないかなと思っていました」

 それが、ハマった。齋藤は勝俣の持ち味を存分に引き出すリードに加え、自慢の強肩で次々と走者を刺すなど、大活躍だった。

「ベンチにいる我々とプレーする現場とでは、見方が違っていたということですよね。勝俣は、齋藤と同じクラスですから。バッテリーにとって仲が良いということは、とても重要なことなので。秋で彼に対する見方は変わりましたね」

 勝俣が齋藤のことをかなり信頼していると思わせるエピソードがある。勝俣といえば、縦に鋭く落ちるスライダーが決め球だ。だが落差が鋭く、コントロールするにも難しい球種。ある試合で、勝俣はランナー三塁の場面でそれを使ったことがあった。だが、齋藤は捕球できずに1点を失った。勝俣は、そういった場面で一度だけではなく、何度も使い続けている。この場面で縦のスライダーを投げるのは、後逸で失点するリスクがある。

 それだけに驚きの配球だったが、勝俣は、「捕れると信じている。後逸したら、それは僕の責任で、その後はしっかりと投げればよい」と後逸したことを気にする様子はなかったのだ。そもそも信頼していなければ、バッテリーを組むことはないだろう。仮に組んだとしても、大事な場面で後逸する危険のある球を投げさせるという選択肢は考えづらい。この背景を知る前は、ピンチでも後逸して失点することに対して動じない度胸ある投手だと思っていたが、仲間思いのエースだと感じさせるエピソードだった。

 今となれば、直言した勝俣の自主性、またそれを受け入れた若林監督の度量の大きさが結果となって表れたと言えよう。

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秋の優勝は6年間の積み重ねの成果


秋の優勝したシーン

 また優勝のもう1つの要因として、若林監督は、「6年間の積み重ねが大きいですね」と語る。
「今のチームで、6年前に優勝できたかというと、それはないと思います。先輩たちが残してきた積み重ねがあったからこそ、今回の優勝につながったと思います」

 秋の決勝では、二松学舎大付に8回裏まで1対2と1点差を追う展開だったが、見事に逆転して優勝を決めた。この逆転劇は、去年のチームの選手たちが日大三を破ったことから繋がったと話す。

「夏の準決勝で、4点差を逆転して勝利したのは、うちにとって大きな勝利でしたね。このとき、レギュラーとして出ていたのは、勝俣ぐらい。多くの選手がスタンドで見ていました。ベンチ内でも『1点差の逆転は、俺たちも出来る!』という雰囲気が伝わっていました」
絶対に諦めないチームへ変貌していたのだ。

 今チームの東海大菅生は、エースで3番を打つ勝俣の存在も大きいが、優勝した背景には、昨年の春季大会後からが大きい。大事にしてきたのは、監督と選手との信頼関係。そして次の世代のために何を残すか。昨年の先輩が残したのは、絶対に諦めない姿勢だった。屈辱的ともいえる5回コールドから立ち上がった東海大菅生ナインは、ついに9年ぶりの選抜甲子園出場を果たし、新たな伝統を築くチャンスを得た。

 後編では、選抜に向けてどんな取り組みを行っているのか。チームの課題、若林監督が期待するキーマンについて語ってもらいました。

(文・河嶋 宗一

東海大学菅生高等学校(東京)【後編】を読む!

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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