倉敷商vs宇部鴻城
優勝した倉敷商ナイン
新しい境地
好調だからこそ粘り強さも発揮できる。
5回裏、1点ビハインドの倉敷商は、宇部鴻城の先発・金丸将から3つの四球を選び、1死満塁。ここで登場したのはプロ注目の4番・川合祐太朗である。
この日の川合は、1打席目で「詰まったんですけど、ある程度は手応えありました」というあわやセンターオーバーかと思われる大飛球を放つと、2打席目では、インコース低めのストレートをマスカットスタジアムの右翼スタンドへ突き刺さる高校通算21号本塁打を放り込んでいた。そのスイングからは、打てるオーラが漂っており、いわば好調であるいうことがみてとれるかのようだった。
そして、これほどの見せ場はないといえるほどの場面を迎えた。
それに対し宇部鴻城ベンチも動いた。先発の金丸に代えて、今大会2試合17イニングを投げてわずか1失点、さらに最速143キロもマークしている2年生エース・笹永弥則をマウンドに投入した。
倉敷商ベンチからの指示は「次のバッターもいるから繋げるように」。
そんな指示に川合もこう思った。
「自分だけでやっているのでない。5番の大山(貴広)も打つバッターなので、繋げばなんとかなると思いました」
ファールで粘る川合(倉敷商)
カウント、3ボール2ストライクになってからも必死で食らいつき、計4つのファールを打つなど、代わったばかりの笹永に計9球を投げさせ、同点となる押し出しの四球を選んだのだ。
本塁打のあとに粘りに粘って四球を選ぶことができることも、ある意味、さすがプロ注目の4番打者である。
そしてその直後、5番・大山の三塁ゴロで1点、さらには6番・岡田聖司が左前へ2点適時打を放ち、この回に一挙4点を奪った。これで試合の主導権を握った倉敷商は、5回から笠原浩平をリリーフした西隆聖が5回を被安打1の無失点に抑え、2年ぶり2度目の中国大会優勝を果たした。
試合後、倉敷商の森光淳郎監督は「相手の先発・金丸投手はいい投手でした。打てなくてもバントと走塁、それに守備ですね。それをしっかりとやる意味でも明後日から始まる合宿では、精神力の向上を含め、一から基本を徹底的にやります」と気を引き締めた。
それは本塁打を打っても、おごらず、次の打席で粘って四球を選んだ4番が示してくれたように、どれだけの成績を残しても新しい境地を見出そうとしているチームの向上心が垣間見えた瞬間でもあった。
(文=アストロ)