宮澤健太郎(JX-ENEOS)が語る『キャプテン論』
キャプテン論2011年12月16日
社会人野球の強豪・JX-ENEOSでキャプテンを任されて、今年で6年目となる宮澤健太郎(岡谷南-明治大)。社会人野球界でこれだけ長くキャプテンを務めるのは珍しいが、実は高校時代のキャプテン経験はない。明治大でも、3年生まではベンチ入りも難しく、リーグ戦で打席に立ったのはたった一度だけ。
しかし、最上級生になると、前向きに練習に取り組み続ける姿勢を評されキャプテンに抜擢。4年春のリーグ戦では、公式戦での打席経験がほぼないながらも、なんと首位打者を獲得する。
大学卒業後、JX-ENEOSに入社した宮澤は4年目の06年に、大久保秀昭監督の就任と同時に、またもキャプテンに任命され、08年に都市対抗優勝を果たす。
さらに、09年8月のアジア選手権大会では、日本代表チームのキャプテンとして4連覇に導くなど、今では社会人野球界の『Mr.キャプテン』と呼ばれる男にまでなった。
今回は、そんな宮澤選手に高校野球部のキャプテンたちに向けてメッセージをいただきました!
キャプテンの重圧で不安だった日々
最初、大久保監督に「キャプテンはお前にするから」って言われた時は正直、不安でした。
それまでチームは、都市対抗に2年連続で出場を逃していたので、会社からも大きな期待がかかった大事な年でしたから、「僕が本当にやっていけるのかな?」「こんな大事な年にキャプテンを自分が任されていいのかな?」って。
入社2~3年目はレギュラーで出ていたけど、大して成績を残していたわけじゃなかったんです。自分が言っても説得力もないんじゃないかって、そんなことを考えていました。
だけど、監督さんがなぜ自分をキャプテンに選んでもらったのかって理由を整理していくうちに、前向きに捉えられるようになりました。
僕は長野県の公立校で野球をやってきて、もともと野球選手としてのセンスがあるほうじゃない。だけど、それを埋めるための一球に懸ける思いや、ひたむきさを出し続けること。
そういった自分のスタイルを認めてもらえたんだから、キャプテンとしてもそれは貫いていこうって思うことができました。
大きな責任を背負った戸惑いがありながらも、自分が選ばれた理由を今一度、見つめ直すことで、進むべき道を見い出した宮澤選手。次のページからは、そんな宮澤選手が、全国のキャプテンから寄せられた質問に1つずつお答えしていきます!
後輩・同級生への声の掛け方のポイント
【左:宮澤、右:同郷の後輩・倉又啓輔(上田西-亜大】
僕がキャプテンになってから気をつけているのは、年下の部員たちに、変に上から「こうしろ」「こうしたほうがいいぞ」と言わずに、その選手に考えさせるように言ったり、同じ目線に立って話しをするようにしています。
また言うタイミングも重要で、練習中でも「言われなくても分かってるよ。うるせぇな」って思ってる選手に言い続けても無駄で、その選手は言われ過ぎて、自分の良さを出そうとしないわけですよ。
そういう時は、公式戦ではなくて練習試合で、その選手がミスして負けたという場面があった時などに、「だから言っただろ?練習で俺らがあんなに言ったのは、そういうことなんだよ」って伝えたほうが吸収しやすいんです。
やっぱり最初の頃は、そのタイミングが分からなかったけど、次第に「ここで今こうやって言って吸収するかな?」「今じゃなくて、もうちょっと経って、何かのきっかけで言ったほうがこいつのためになるんじゃないかな」って自分自身が分かるようになってくるんですよね。
あとは、キャプテンが怒る対象って言うのは、社会人の場合だと入社1~2年目の選手じゃなくて、入社3~5年目の中堅どころの選手になってきます。高校生の場合なら、1つ下の後輩、そして同級生ですね。
1学年下の後輩なら「お前らが1年生に言わなくちゃいけないんじゃねぇの?」、同級生には「俺たちがやらなきゃいけねぇんだろ」と気付かせることも大事です。下級生の場合はとくに、僕らはずっと現役でやっているわけじゃないので、僕らがいなくなった時にチームの伝統を守るのはそのすぐ下の選手たちなんです。
また、これはキャプテン関係なく、先輩が後輩に伝える際には「○○さんに怒られた」とただネガティブに捉えて終わってしまう伝え方ではなくて、先輩としての自分の役割が何なのかを考えて伝えることが大事だと思います。
周りが見えるキャプテンになるには?
周りが見えるというのは、自分に自信がある時です。といっても、キャプテンだからとか、試合で成績を出してるから偉いわけじゃなくて、日頃の取り組み方に対しての自信があるか、ないかということです。
例えば、「うちのキャプテンは、めちゃめちゃ打つけど、いつもスパイクは磨いてねえし、汚ねえな」って仲間から言われていたら、誰もついてきてくれません。
試合で結果が秋は出ていなくても、練習姿勢も含めて自分はやることやってきているっていう“自分への自信”が持てれば、不思議と周りが見えるようになるものです。
もしもキャプテンが孤立してしまったら…
選手っていうのは、何か直さなきゃいけないことがあった時、上の人からガンっていわれるよりも、選手から指摘されたほうが聞きやすかったりするんですよね。
だけど、キャプテンのそんな厳しい面に他のメンバーがついてこれなくなった時は、まずは自分の味方を見つけるのがいいと思います。うちの場合は、副キャプテンがいるんで多少フォローしてくれるところもある。
監督の言いたいことをキャプテンが最初に理解しているなら、まずは「俺たちがまず、やろう」という仲間をつくっていく。最初は2人でも5人でもいい、そこから人数が増えて、徐々に広げていく。
例えば、朝の自主練習なんかでも最初は「バット100回振ってから学校行こうぜ」って決めてやってるうちに、1つ下の部員たちが毎朝来るようになったら、そういうのって嬉しいじゃないですか。「おぉ、お前も来てくれたのか。一緒に頑張ろうぜ」って。例え、キャプテンが孤立してしまったと思っても、努力していくうちに仲間は必ず増えていきます!
また、社会人野球の世界では、会社はそうやって気付いて練習をする選手を残していくんです。そうじゃない選手は切っていくっていうチームが多いと思う。だからこそ、うちも、「頑張ってこう」ってやつは自然と集まってくるし、自然と結束が強くなって、結果も出てくるんですよね。
今、高校時代に戻ってキャプテンを任されたとしたら何を取り組むのか?
僕らの代は仲も良かったし、みんなよく練習もしていたけど、もし高校2年生の秋に戻って自分がキャプテンを任されたら何をしていたかな。
今の自分の経験を持って戻っていたら、ミーティングをもっと開いていたかもしれませんね。
「こういうピッチャーは、こうやって攻略してこうぜ」「このチームのキャッチャーは肩ないから足使っていこうぜ」っていうのを当時は監督任せにしている部分が強かったので、もっと選手内で話し合ったり、他にも、「最近、お前たるんでるんじゃねえの?もっと野球に集中してがんばろうや」とか、そういう話しをしたと思います。
お互いにどういう考えで今、野球をやっているのか?それをちょっと知るだけでも、チームの結束力が生まれるんだと、社会人に入ってから改めて感じましたね。
オフシーズンを頑張る球児たちへ 「チーム全体の心のタフさを身に付ける方法」
まずはキャプテンというより、選手全員に対してですが、自分が今、振り返っても高校生の冬って、めちゃくちゃ伸びる時期でした。
僕も最上級生になってから、ひたすら追い込んで練習してきました。来シーズンになったら、秋はここまでしかボールが飛ばなかったけど、春になって飛距離が変わったとか、目に見えて結果が出てくるんで、オフの期間に必死に追い込んでほしいですね。
オフのメニューに関しては、社会人に入ってからも、やっぱり「体の変化」と「野球力」をテーマにして、体の変化なら走りこみとバットの振り込み。あと下半身強化のトレーニングを大事にしています。
僕が高校生の時は、諏訪湖を2周(34キロ)走ってました。長野の冬は本当に寒かったんですけど、今はそのおかげで長距離は速いんです!
心も体のスタミナも、間違いなく『練習』で強くできるものなので、とにかく限界を作らずに、 「もう無理」じゃなくて、「やってみようぜ!」って取り組んで欲しいですね。
最後に、もう1つだけアドバイスですが、この冬の練習で例えば監督が突然「走れ!」と言ったとします。その時に、嫌々やるんじゃなくて、「分かりました!はい、やります!」っていう心のタフさをこの期間でつけておくといいと思いますよ。
本心では、「やれば、いいんでしょ!」って思っていても、「うるせーな」とは思わない。それって、野球の試合と一緒で、試合も何が起こるか分からないじゃないですか。突然、主戦の選手が怪我をして戦力が落ちるかもしれない。たった一球で流れが変わるかもしれない。その時に動揺せずに、チームみんながプレーできるかどうかは、練習の時から「なんでも来い!」っていう精神でやれるかどうか。キャプテンは、そうやって部員たちが考えられるように、心をリードするのも役割なので、ぜひ前向きに「やろうぜ!」と声を掛けて取り組んでみてください。
宮澤選手、ありがとうございました。責任が大きく、周りの人のことも考えて動くポジションだからこそ、キャプテンは、その選手自身が成長できるチャンスです。例年、この12月~2月に期間に、キャプテンが声を掛けて、選手たちだけで本気で話し合う時間を作るチームも多いようですが、みなさんも宮澤選手の言葉から、真似できる考え方が見つかれば、ぜひ実践してみてくださいね。
(取材・構成:安田未由)