大垣西vs市立岐阜商
大藏彰人(大垣西)
岐阜県ナンバーワン右腕と左腕 明暗分かれる
岐阜県ナンバーワン右腕・大藏彰人とナンバーワン左腕・秋田千一郎の対決が注目を集めた、岐阜県春季大会の準決勝・大垣西×市立岐阜商。東海大会進出をかけた一戦は、両投手で明暗が分かれた。
投げ勝って存在感を高めたのは大垣西・大藏だ。「コントロールを重視し、球を低目に集めた」と本人が振り返るとおり、自滅せず投げ抜いた。県ベスト4に進出した昨秋も好投は光っていたが、この春はより一層、投げる姿が生き生きとしている。もともとの安定感や丁寧さに、マウンド上での躍動感がプラスされた。体のキレが増し、思い切って腕が振れているからヒジもしなる。初回こそ「相手の主砲・秋田君は外角が強いので内角攻めを指示したが、それと違うボールがいってしまった」(福島秀一監督)ため秋田にタイムリーを浴びたが、硬さがとれた2回表以降は零封。みなぎる自信・エネルギーが感じられた。
一方で、敗れた市立岐阜商・秋田は不安を残した。本調子から程遠く、肩の張りもあり4回裏途中で降板。パフォーマンスは勢いを欠き、ストレートも指にかからずボーッとした球筋だった。制球も冴えず、与えた四球は打者14人に対し5つ。県大会初戦からしっくりきていない様子だったが、この日も曇り空のままマウンドを去った。
試合を視察したプロ球団のスカウトも大藏を「コントロールやスタミナなどの面も含め、いいものを持っている」と見守ったが、秋田については状態を気遣うコメントが並んだ。秋田は試行錯誤中のようだが、誰よりも野球と真摯に向き合える選手だけに、夏の復調を信じたいところだ。
秋田千一郎(市立岐阜商)
大垣西は9回裏、25年振りとなる春季県大会の決勝進出を「サヨナラスクイズ」で決めた。一死二・三塁の場面で、打席に入った大藏が初球を一塁線に転がした。「(スクイズは)決めていました。大藏と『初球にいこう』と確認していました」と福島監督。数日前、雨の中で自転車を運転していた際に転倒し、左頬を大きな絆創膏が覆う闘将の顔には、満面の笑みが浮かんでいた。四球で出塁した先頭打者に代走を起用し、勝負に出たのが的中した。
「去年の秋は県大会4位で(東海大会に出られず)悔しかった。センバツ21世紀枠の東海地区推薦校に選ばれたことをモチベーションにし、その名誉に恥ずかしくないチームになろうと取り組んできました」とは福島監督の談。それぞれが冬のトレーニングで成長を重ねてきた。4番平塚圭も、ひと回り体が大きくなった。この日はその甲斐あって初回、右方向へ同点タイムリー三塁打をマーク。「絶対にランナーを返したい場面だったので(打てて良かった)。相手投手の変化球がコースに決まっていなかったので、それを逆方向に打ち返すつもりだった」という狙い通りの打撃で、主軸の役割を果たした。
優勝候補本命だった市立岐阜商にとっては、東海大会の切符を逃す手痛い黒星に。サヨナラ負けを喫した9回裏の初球スクイズは出し抜かれたような形にも映ったが、秋田和哉監督は「あぁいう展開になっては…」とスクイズ以前の劣勢に肩を落とし、息子・(秋田)千一郎について「だらしない」とバッサリ。ただ市立岐阜商にとっては収穫もあった。2番手で登板した越渡俊太は、4回裏のピンチを三者連続三振で切り抜けるなど、キレのあるストレートとスライダーで素晴らしい投球を披露。また、その越渡に代わって9回表、代打に出た坪井大和が先頭打者として放った二塁打は、越渡の好投を生かしたいという思いが詰まった、チームの連帯を高める一打だった。
(文=尾関 雄一朗)