龍谷大平安vs京都すばる
田村嘉英投手(龍谷大平安)
背番号10の意地
中盤から着実に得点を積み重ね、投打に圧倒した強さを見せつけた龍谷大平安。
しかし、原田英彦監督は決して手放しで喜んでいない。
「結果だけ見れば完勝ですけれど、細かいプレーがなっていない。６回に連続三振で二死を取った後に、内野の悪送球で走者を出して、一番打たれてはいけない打者（１番・生田海至）にライトオーバー（のヒット）を打たれる。シングルヒットで止められたのは結果論で、判断次第では走者が生還していたかもしれない。スキを突かれれば、こういうプレーで流れが変わることだってあるんです」（原田監督）。
確かに、初の走者が野手のエラーというのは、これまでほぼ完璧に相手打線を封じていた先発の田村嘉英投手のリズムを狂わせかねない。二死・一、三塁のピンチを背負い、田村はこの試合で初めてプレッシャーを与えられたが、２番の小西正悟を難なく右飛に打ち取った。
「去年までの自分だったら、あの場面で崩れていたかもしれないです。でも、今日は冷静に抑えることができました」（田村嘉英投手）。
田村は、1年秋から主砲・髙橋大樹と共にチームの柱として期待されてきた。185cm、77kgと恵まれた体から140キロを超える速球を操る本格派右腕として注目を集めるも「頼りにならない。考えて投げられていないから、いつまでたっても悪い状態のまま」と、指揮官から厳しい言葉を浴びせられてきた。昨夏の甲子園に出場した際も、背番号は10。新湊（富山）を相手に、３対１とリードされた終盤に２番手投手としてマウンドに立つも、流れを変えるどころか追加点を奪われるなど全くいいところがなく、チームも初戦敗退を喫した。
田村嘉英投手(龍谷大平安)
龍谷大平安は、3月の練習試合解禁以降、登板した試合の防御率で春の大会の投手の背番号を決める。この春、田村が背負ったのは、またしても「10」だった。「自分にはまだまだ足りない部分があるから」と本人は話すが、もちろん満足しているわけではない。
「今日はこの冬取り組んできた練習の成果を見せたい」と気合いはみなぎっていた。
立ち上がりから直球が走り、1回に、1、2番打者を連続三振に斬って、さらにリズムに乗った。「中盤以降はそこに変化球も交えていった」と、昨秋以降にものにしたフォークとシュートで三振の数をさらに増やしていった。冬場の１日10キロのランニングで体重が昨秋から５キロアップしたこともあり、球に重たさも増した。まさに、「冬の成果」を一気に押し出したマウンドだった。
「昨年までは、考え方が幼くて何を言ってもピッチングに生かされていなかったけれど、今年になって少しずつ考え方がしっかりしてきた」と指揮官も成長の跡を認める。
だが、背番号10を背負う田村には立ち止まっている暇はない。「このままチームが勝ち進んで、まずは京都で優勝したいです。チームが勝てるピッチングをこれからも続けていきたい。もちろん、背番号もこのままのつもりはありません」。
そう言い切った目には、古豪のマウンドを守り切るプライドがはっきりとにじみ出ていた。
スターティングメンバー
【京都すばる】
８生田海至、９小西正悟、６木藤大輝、５髙寺将太、１鈴木志廣、７青木雄太、３村上和人、４清水大、２瀧野稜也
【龍谷大平安】
８井澤凌一朗、３目賀田裕人、２久保田昌也、９髙橋大樹、５嶋田侑人、７有田浩之、４梅田響、１田村嘉英、６中路敦
(文＝沢井史)
