高知vs小豆島
![高知vs小豆島 | 高校野球ドットコム](/images/report/zenkoku/20120503002/photo01.jpg)
1回裏高知・先頭打者ホームランの岡﨑を拍手で讃える三木(小豆島)
小豆島、四国大会での冒険。そして「現実」と「勝負」の世界へ
その瞬間、小豆島一塁手の三木敦史(3年)は笑顔で、グラブと左手を合わせて拍手していた。
1回裏。小豆島先発アンダーハンド長町泰地(3年)の101キロスローカーブを上から捉えた高知先頭打者・岡﨑賢也(3年)の打球は美しい放物線を描いてライトスタンドへ。冒頭の行動はその際出たものである。そして直後のベンチ前、杉吉勇輝監督と、選手たちの間ではこんな会話が繰り広げられたという。
選手たち「あの手首の返し!あれが僕らの目指しているもの。凄いですよ!」
杉吉監督「それはよかったね」
選手たち「あれは打たれますよ!」
杉吉監督「それを抑えるのがお前たちの仕事やろ」
まるで冒険旅行で探していた宝物を掘り当てたかのような選手たちの反応。が、そんな野球少年のような好奇心と探究心が彼らのベースボールを形作ってきた要素である。
そして小豆島は2点ビハインドで迎えた6回表・その宝物を自分たちの体に取り込み始める。これが公式戦初先発となる高知先発・和田恋(2年)に対し、4番・塩田薫(3年)が3打席連続安打となる左越二塁打で口火を切ると、2死1・2塁から8番・三木が詰まりながらもライト前に落とす適時打。拍手を拍手で終わらせず、自らの結果にしてしまう彼らの真骨頂が、一連の攻撃に表れていた。
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3打数3安打1打点と4番の仕事を果たした塩田(小豆島)
その後、7回には守備の乱れもあり4点を失って試合を決められるも、9回には再び2点を返し春季香川県大会初優勝が決してフロックでないことを示した小豆島。前日の開会式の選手宣誓で土居優馬(3年・主将)が述べた「1つ、その時その時でベストを尽くすこと。2つ、ゲームセットの瞬間まで闘い抜くこと。3つ、自分を信じ仲間を信じること。以上3つのことを心がけ、選手スタンド一体となって、エンジョイベースボールすること」先に待っていたのは、スタンドからの暖かい拍手であった…。
この春の県大会優勝と四国大会での健闘により、今後小豆島高校野球部を取り囲む空気は激変するに違いない。マスコミの取材要請は殺到し、この日もレクザムスタジアム一塁側を埋めた小豆島の皆さんからの期待も日に日に大きくなるはず。今までのように自分たちのペースで、落ち着いて野球を出来る日々は数えるほどになるだろう。過去、春季大会で躍進した学校が夏になかなか結果を残せていないのも、その環境変化に対応しきれなかったことが要因として上げられる。
しかし周囲の喧騒や勝負のかかる夏ゆえの厳しい現実に直面しても、彼らが好奇心と探究心を伴った冒険心さえ忘れなければ、門戸を開く可能性は必ずあるはず。「確かに凄いが歯が立たないわけではない」(杉吉監督)壁を破るキーワードは三木の「拍手」からつながった6回表の戦い方にある。
(文=寺下友徳)