東邦vs豊田工
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伊藤竜次(豊田工)
ベスト4進出の豊田工 東邦相手に善戦
今回の愛知県春季大会でもっともサプライズな快進撃を見せたのが豊田工だろう。2回戦で愛産大三河を9回裏サヨナラ勝ちで破ると、センバツ出場校・愛工大名電と相対した準々決勝でも9回裏に3点を入れ、またも逆転サヨナラ。ここ5年の夏の大会は最高でも3回戦止まりで、昨秋も地区大会で敗退した同校が、県大会4連勝で躍進のベスト4だ。
平松忠親監督は言う。「冬の練習の成果でしょうか。特別なことはしていませんが、8キロ走った後にスイングをしたりと、『しんどい中で、どう普通にプレーするか』をこの冬特に考えました。サーキット系のトレーニングは以前から優秀なトレーニングコーチに指導してもらっているので、そこに前述のような原点回帰の要素も加えました」。愛工大名電戦では最終回に試合をひっくり返すなど、精神面ではあきらめない強さも身に付けた。「選手はビクビクせず、野球を楽しんでいます」(同監督)。
この日の準決勝でも強豪・東邦を相手に、サウスポーのエース伊藤竜次が粘った。左肩を回してオーバースローで投げ込んでくるボールには高さがあり、ストレートは最速で136キロをマークした。それでも本人は「強豪相手だとストレートは通用しない。低目の変化球ならあまり打たれないし、どこで裏をかくかがカギ」。その言葉通り、変化球で相手に的を絞らせないピッチングを展開した。惜しかったのは初回、死球で出した先頭打者をボークで二進させ、自らのワイルドピッチで本塁生還を許してしまったこと。「緊張があったのかな」と振り返りつつ、「ベンチで監督から『勝つ気が見えない。オーラがない』と言われ、気持ちを切り替えた」と、8イニングスで6被安打にとどめた。
伊藤がマウンド上でのたくましさを増したのは、体重増加が理由だと本人も監督も分析する。入学時62キロだったウエイトは、現在75キロ。ひと冬越えて大きくなった。「中学時代は食べても体重が全然増えなかったんですが…」。平松監督は「ピッチャーでも起用している一塁手の櫻庭拓哉と、体重の伸び率を競わせていました。『ライバル』がいたのが良かったのでは」。体重に比例して球速も伸び、入学時は112キロだったが20キロ以上アップした。なお伊藤はバッティングも非凡で、うまく右半身を壁にして体重移動しながら、バットコントロール良く2安打を放った。
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竹中大智(東邦)
試合は豊田工打線が3安打に抑えられ、三塁を踏めぬままゲームセット。平松監督は「何もできなかった。(試合が終わるまで)速かった…」と無念の様子だ。「これで喜んでいたら夏は勝てない。負け試合に『ナイスゲーム』はない。もう一度原点に戻って、新チームのつもりで、調子にのらずやっていかなければ」とナインを引き締めた。
それでも、4強進出を関係者らに称えられ、指揮官は「目標はもちろん甲子園ですが、今までなかなか見えなかったのが、(今回の4強で)見えるような気がしてきた。ワクワクしている」と視界そのものは良好。伊藤も「愛工大名電を(自身が登板したイニングでは)1点に抑えるなど自信になった。夏までにさらに下半身を強化し、球速や低目のコントロールを磨きます」と、春の自信をモチベーションに変え、気を緩めず強化に励む構えだ。
勝った東邦は、先発のサイドスロー・竹中大智が相手打線を完封した。右打者の外角へのコントロールが冴えに冴え、巧みな出し入れで凡打の山を築いた。
打線は5回裏、三塁打を放った7番小川勇磨を8番原田一輝が犠牲フライで返し追加点を奪うと、8回裏には敵失も絡んでリードを広げた。1番打者の2年生・関根大気は二塁打やバントヒットなど計3安打と活躍。昨秋は控えだったが、足も速くリードオフマンとして楽しみな選手だ。
(文=尾関雄一朗)