試合レポート

作新学院vs関東一

2012.05.24

小関順二の関東大会特別観戦記vol.3
~9回に起こったドラマ ~

 8回が終わった時点で関東一が5対1でリードする展開。勝負の行方は完全に見えたと、誰もが思った9回にドラマが起こった。

 4点リードの9回表、守りにつく関東一のマウンドに上がったのは選抜大会で大活躍し、チームを4強に押し上げる原動力になった2年生エースの中村祐太。ゆったりとした投球フォームは相変わらずで、リリースのときだけ腕が鋭く振り下ろされ、ボールがピュッと……来ない。

 先頭の山下勇斗(2年・捕手)がフルカウントの末に歩くと、この日3安打を放っている山梨浩太(2年・二塁手)が4本目のヒットをレフト前に放ち、2死後、1番布瀬恭平(3年・右翼手)がやはりフルカウントの末に歩いて満塁となった。
 この場面で打席に立った鶴田剛也(3年・中堅手)が放った打球はライトへの大きな飛球。大きな飛球だが、捕れない打球ではない。実際、ライトの岸直哉(3年)が一度は追いついて捕球する体勢に入っていた。しかし、岸がこれを落球し(記録は二塁打)、満塁の走者はすべて生還して得点は1点差となる。なおも2死二塁の場面で、3番石井一成(3年・遊撃手)が中村の直球をセンター前に弾き返して、二塁走者の鶴田が“まさかまさか”の同点のホームを踏んだ。

 話を聞くと、中村は選抜のときから股関節に痛みを訴えていたという。投げるのが怖くない状態まで復調しているとのことだが、選抜のときに見せたストレートのキレがこの日はなかった。4番髙山良介(3年・一塁手)をストレートで空振りの三振に打ち取ったのはせめてもの意地だろう。

 しかし、ドラマはこれだけでは終わらない。


 9回裏、同点に追いつかれた関東一の先頭打者は、同点にされた責任を1人で背負い込んでいるかのような岸。
 選抜大会で岸が記録した打者走者の一塁到達タイム(バント以外)3.82秒、3.85秒、3.86秒は、私が計測した中ではここまで高校生の1~3位を独占している。それほど足が速い岸がここでセーフティバントを敢行し、一塁にダイビングするかのような迫力満点のヘッドスライディングでセーフをもぎ取る(一塁到達タイムは3.75秒。これは高校生4位のタイムである)。
 さらに岸は盗塁に成功し、1番磯部優太(3年・三塁手)のバントが内野安打となり無死二、三塁のチャンスとなった。続く打者は、選抜では3番を打っていた途中出場の吉江将一(3年・遊撃手)。
 その吉江が内野安打を放ってサヨナラ勝ち。あっという間の出来事であっけなく終わった印象があるかもしれないが、岸の意地とか、吉江の4強メンバーのプライドとか色々なものが垣間見え、私はワクワクしてこのサヨナラ劇を見た。

 サヨナラ負けを喫した作新学院のマウンドにいたのは、エースの大谷樹弘(3年)。
 選抜ではスリークォーターで投げ、大きく横に変化するスライダーを武器に倉敷商を3失点完投勝ちしている。今大会ではモデルチェンジしてオーバースローで投げ、私が見た埼玉南稜戦では選抜時に目立ったボールの抜け癖が消え、だいぶよくなっていた。
 しかし、モデルチェンジが完成するまでには時間を要するということだろう。この日はボールが抜けまくり、3回3分の0を投げ、被安打6(内野安打3)、与四死球2と乱れまくった。夏までにどのように調整してくるか、大谷次第で作新学院の夏の運命も決まるような気がしてならない。

(文=小関順二)

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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