試合レポート

登美ヶ丘vs香芝

2012.07.16

ベンチで最後の夏を迎えたエース

出だしは素晴らしかった。

香芝のエースナンバーを背負う藤井洸佑(3年)にとっての高校生活は抜群の滑り出しだった。
高校1年夏からベンチ入り。背番号20を身にまとった彼は、早々からデビューして指揮官の期待にも応えていた。
「腕を振れますし、ストレートが走る。手元でくるピッチャー」と安井浩監督は藤井を入学当初から重用していたものだ。

藤井自身も当時を回想する。
「高校に入ってすぐに活躍したいと思っていました。一年の夏は結果も出たので、良かったとは思う」

しかし、この日、最後の夏の初戦を、藤井はベンチで迎えた。
安井監督がいうには「チーム事情」。つまり、現時点での藤井は、指揮官の信頼を得るまでにはいたってなかったということだった

試合は、先発した星島慎一(2年)が抜群の立ち上がりを見せるも、2回に大きく崩れる。四球で出した走者で1点を失うと、そこから死球を挟む5連打を浴びて5失点。
登美ヶ丘の先発・北健太(3年)が好投手なだけに重たい5失点だった。

「四球からの失点だったんで、途中からはストライクを欲しがってしまった。5点は大きかった」と安井監督は唇を噛んだ。

それでも、藤井に声はかからなかった。
結局、藤井がマウンドに上がったのは、さらに1失点をしたあとの7回裏からだった。


「投げたくて投げたくてしょうがなかった。マウンドに上がった時には、あと1点でも失ったらコールドだったので、それだけは避けようと思った」と話した藤井。

1安打こそ浴びたものの、2回を無失点に抑える好投。
試合はそのまま0対6で敗れたが、藤井の意地を見たピッチングだった。

とはいえ、藤井にとっては悔いの残る試合になったに違いない。
1年夏に華々しくデビューを飾りながら、この結末は本人も予想はできなかっただろう。

試合後、藤井は目を赤く腫らしながら、こう語った。
「もっとみんなと野球がしたかった。悔いが残ります。このまま悔しいままで野球人生を終わりたくない。この先も野球を続けたいと思います。もっと、コントロールの良いピッチャーになって、しっかり抑えられるようになりたい」

今は悔しいだろう。
だが、人生とはそういうものだ

完全燃焼できなかったというこの日の想いが、今後の人生にとって何より意味がある。

(文=氏原英明)

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

関連記事

応援メッセージを投稿

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

RANKING

人気記事

2024.07.05

白山高元監督の“下剋上球児”再現はあるのか!? センバツ1勝の宇治山田商、2年生集団で東海大会準優勝の菰野など各ブロックの見所を紹介【2024夏・三重大会展望】

2024.07.04

「学校と地域に支えられて戦う」県内有数の進学校・磐田南(静岡)、“潔く”戦って最高の夏に【野球部訪問】

2024.07.04

「速さが怖かった」 センバツ4強から学んだ走塁で市立柏が千葉の上位を狙う

2024.07.04

5日に北北海道大会の抽選会!クラーク記念国際と別海が軸、接戦を勝ち抜いたチームにも勢い

2024.07.04

5日に新潟大会が開幕!帝京長岡と日本文理の対戦相手が決まる【2024夏の甲子園】

2024.06.30

明徳義塾・馬淵監督が閉校する母校のために記念試合を企画! 明徳フルメンバーが参加「いつかは母校の指導をしてみたかった」

2024.06.30

突然の病で右半身が麻痺した「天才野球少年」が迎える最後の夏 あきらめなかった甲子園出場の夢、「代打の一打席でもいいから……」

2024.06.29

北海は道内29連勝なるか、東海大札幌VS札幌日大の強豪対決も、30日に札幌支部で代表決定戦【2024夏の甲子園】

2024.06.29

激戦区・愛知が開幕!ノーシードから4連覇狙う愛工大名電が17得点の圧勝発進、大府、愛知産大三河も初戦を突破【2024夏の甲子園】

2024.06.29

昨秋3位の豊橋中央が登場、享栄破った実力見せる!30日愛知大会【2024夏の甲子園】

2024.06.28

元高校球児が動作解析アプリ「ForceSense」をリリース! 自分とプロ選手との比較も可能に!「データの”可視化”だけでなく”活用”を」

2024.06.30

明徳義塾・馬淵監督が閉校する母校のために記念試合を企画! 明徳フルメンバーが参加「いつかは母校の指導をしてみたかった」

2024.06.28

最下位、優勝、チーム崩壊……波乱万丈のプロ野球人生を送った阪神V戦士「野球指導者となって伝えたいこと」

2024.06.23

プロ注目の大阪桐蔭・徳丸が大学生相手に決勝アーチ!直近3週間5本塁打と量産態勢!2年ぶり夏甲子園へ強打者の勢い止まらず!

2024.06.24

愛媛の組み合わせ決定!今春優勝の松山商・大西主将は「どのチームと闘っても自信をもってベストなゲームをしたい」シード4校主将が意気込み語る!