登美ヶ丘vs香芝
ベンチで最後の夏を迎えたエース
出だしは素晴らしかった。
香芝のエースナンバーを背負う藤井洸佑(3年)にとっての高校生活は抜群の滑り出しだった。
高校1年夏からベンチ入り。背番号20を身にまとった彼は、早々からデビューして指揮官の期待にも応えていた。
「腕を振れますし、ストレートが走る。手元でくるピッチャー」と安井浩監督は藤井を入学当初から重用していたものだ。
藤井自身も当時を回想する。
「高校に入ってすぐに活躍したいと思っていました。一年の夏は結果も出たので、良かったとは思う」
しかし、この日、最後の夏の初戦を、藤井はベンチで迎えた。
安井監督がいうには「チーム事情」。つまり、現時点での藤井は、指揮官の信頼を得るまでにはいたってなかったということだった
試合は、先発した星島慎一(2年)が抜群の立ち上がりを見せるも、2回に大きく崩れる。四球で出した走者で1点を失うと、そこから死球を挟む5連打を浴びて5失点。
登美ヶ丘の先発・北健太(3年)が好投手なだけに重たい5失点だった。
「四球からの失点だったんで、途中からはストライクを欲しがってしまった。5点は大きかった」と安井監督は唇を噛んだ。
それでも、藤井に声はかからなかった。
結局、藤井がマウンドに上がったのは、さらに1失点をしたあとの7回裏からだった。
「投げたくて投げたくてしょうがなかった。マウンドに上がった時には、あと1点でも失ったらコールドだったので、それだけは避けようと思った」と話した藤井。
1安打こそ浴びたものの、2回を無失点に抑える好投。
試合はそのまま0対6で敗れたが、藤井の意地を見たピッチングだった。
とはいえ、藤井にとっては悔いの残る試合になったに違いない。
1年夏に華々しくデビューを飾りながら、この結末は本人も予想はできなかっただろう。
試合後、藤井は目を赤く腫らしながら、こう語った。
「もっとみんなと野球がしたかった。悔いが残ります。このまま悔しいままで野球人生を終わりたくない。この先も野球を続けたいと思います。もっと、コントロールの良いピッチャーになって、しっかり抑えられるようになりたい」
今は悔しいだろう。
だが、人生とはそういうものだ
完全燃焼できなかったというこの日の想いが、今後の人生にとって何より意味がある。
(文=氏原英明)