國学院久我山vs昭和一学園
最強の武器
『走れるチームは強い』
野球界では常套句になっている言葉である。
打線は水物、エラーは付き物。どんな強打線も打てない時はあるし、どんな鉄壁を誇る守備陣もミスをする時はミスが出る。
中国の故事のように、どんなに強い矛と盾も最強には成りえない。しかし、走塁という飛び道具は調子に左右されず、スランプがない。最強の武器に成り得る存在だ。だからこそ走れるチームは強い。そんな言葉を体現したチームがある。國学院久我山だ。
とにかく走る。どんな場面だろうと迷わずにスタートを切ってくる。足の速いチームがいかに脅威であるかということは理解していたつもりだが、國学院久我山の走塁には毎回驚かされてばかりだ。
1回裏、二死から3番の松田進(3年)がセンター前へシングルヒットで出塁する。
と、並みの選手なら書くところだが、松田はセンター前へのヒットにも関わらず躊躇することなく二塁を狙い、見事スコアリングポジションを陥れた。まずはこの走塁が國学院久我山、この日1つ目の脅威の走塁力であった。
2つ目も松田がすぐに見せてくれた。続く4番川口貴都(3年)がレフト前へヒットを放つと、昭和一学園の投手・小坂亮介(3年)のモーションを完璧に盗み、スタートを切っていた松田が悠々とホームに還って先制。レフトの正面に飛んだ強い打球をホームでクロスプレーにすらさせない、驚異の走塁である。
3つ目は連続で訪れた。5回裏、2点目が欲しい國学院久我山は1番佐藤竜彦(3年)が無死から四球で出塁するとすかさず二塁へ盗塁。さらに三盗も決める。3番松田のタイムリー二塁打で還ってくると、今度はその松田が三盗。続く4番川口の今日2本目のタイムリーヒットで生還。
あれよあれよとリードを広げていった。
さらに次は7回裏の攻撃だった。一死から四球で出塁した3番松田がまたも二塁へ盗塁。5番江川尚輝(1年)のセンター前へのタイムリーヒットで生還。ダメ押しの1点となった。
しかもこの場面では、江川のタイムリーヒットの前に、4番の川口が痛烈なショートゴロで倒れているため、もし松田が二塁へ盗塁していなければダブルプレーになり、追加点を上げられていなかった可能性もある。
間違いなく松田の盗塁はビッグプレーであった。目に見えないところでも走塁力は活きる。
結局この試合、8盗塁を決めた國学院久我山が終始主導権を握り勝利、ベスト8に駒を進めた。投げてはエース川口が無四球完投と制球力が光った。
次の塁、次の塁と積極的に狙っていく国学院久我山の走者たち。そのスランプなき最強の武器たちが狙うのは、もちろん甲子園の大舞台。今後もその足から目が離せない。
(文=編集部)