城北vs徳島科学技術
学習実らせる
戦前は右中間を固める右打者3番の宮城俊、左打者田岡加夢伊を中心に、強打で鳴らす徳島科学技術の優勢が予想されたこの一戦。だが、試合開始から2時間17分後、勝利の雄叫びを上げていたのは徳島城北であった。
勝利の立役者となったのは何といってもエースの山下渓登(3年)である。136球を投げ5安打6四球3奪三振という投球内容以上に、インパクトを残したのは劇的なバランス感覚の改善。これまでガチガチに固まったまま力任せに投げていた上体は下半身と連動し、生きたボールが次々と川上耕平(2年)のミットに突き刺さることに。この日の最速は129キロながら、スライダー、「夏まで封印していた」左打者外角へのフォークも含めた球威は素晴らしいものがあった。
なぜ彼がそこまで変われたのか?そのキーマンは今年4月に新野から異動。海部時代以来3年ぶりに指揮を執ることになった福井健太監督である。
「バランスのトレーニングは春からやってきました」
「6月の県総体では1対8で同じ徳島科学技術さんに7回コールド負け。そこからは練習間の切り替えやダッシュなど強豪と接戦に持ち込む練習をしてきたが、本当によくやってくれた」とまずはチームの急成長を絶賛した31歳の青年指揮官は、山下に加えた改善ポイントを端的に語る。
では、具体的には?本人の弁を聴こう。
「これまでは正直、体の使い方が分からなかったんです。ただ、4月に福井監督が就任してからはマンツーマンで教えてもらったのがよかったです。
そこで、まず言われたのは『もっと力を抜け』ということ。そこでグラブのセット位置を下げました。これで腕がスムーズに出るようになった。次に心がけたのは振り切ること。そして高校野球ドットコムで腰の回転と左足の踏ん張りについて掲載があったので、それを見て工夫してみたら6月から投球が安定してきました」。
そしもう1つ見逃せないのが、冬の練習で彼が独自に編み出した「学習ロードワーク」である。、これには少々の説明が必要だろう。
「冬の間は一日10kmくらいペースを変えて走りに行っていたんですが、周囲には色々な学校のグラウンドがあったので、その練習も外から見るようにしました。例えば生光学園は遅くまで練習をやっていたので、『練習時間が3時間しか取れない僕らはもっと効率よく練習をしなくてはいけない』と思いましたし、色々と参考になりました」。
迷いの中でも探究心を失わなかった山下の姿勢。それが新しい師と出逢ったことで線となり、面となり急成長につながったのである。
「左打者にいいピッチングができたのは自信になります」と、2回戦へ向けての成果を饒舌に話すエース。その表情はまるで夏の太陽のように晴れやかなものだった。
(文=寺下友徳)