愛工大名電vs豊田西
勝って兜の緒を締める
愛知大会準決勝第2試合は、試合後半に10点を挙げた愛工大名電がコールドで豊田西を下し、2年連続で決勝に進出した。
捕手がバットで試合を決めた。同点で迎えた6回表、二死満塁で愛工大名電の9番・中村雄太朗(3年)が変化球を振り抜くと、打球は左中間を破り3者が生還した。「エンドランのサインが出ていました。自分の打撃の調子が悪かったので、監督さんもイチかバチかで(エンドランのサインを)出したんじゃないかと。ボールをしっかり見ることを意識しました。あとは体が反応しました」。
中村にとって、気持ちを込めた一打だった。試合前に母から「悔いだけは残すな」と激励されたといい、「女手ひとつで育ててくれた母の前で打てたのも良かったです」。そして、昨年2月に漁船で漁に出たまま行方不明となっている祖父母にも、忘れず思いを馳せた。さらにこの日、母を通じて一通の手紙が届いた話も披露してくれた。手紙の主は、中学時代にシニア東海連盟の選抜チームで仲良くなった平林翔斗(刈谷・3年)で、打撃フォームについてのアドバイスなどが書かれていたという。また、「前日は1年生に練習を手伝ってもらったので(打てた)」と下級生の存在にも言及するなど、中村の口からは感謝の言葉が相次いだ。
ひとつ前の打席では、鮮やかにセーフティバントを決めていた。「監督からは、全打席セーフティバントでもいいぐらいだと言われています。バントの構えをしたとき、相手二塁手の(一塁ベースカバーに入る)動きが素早かったのに対し、一塁手の飛び出しの動きはさほど早くなかった。そういう状況では、一塁方向へのプッシュバントが効くんです」と、してやったりの表情。3番佐藤大将(3年)のスクイズで同点のホームを踏んだ。
「春もいいですが、甲子園は夏に行きたいんで」。ワクワクした様子で、中村は力を込めた。
愛工大名電にとっては、エース濱田達郎(3年)の復調も好材料だ。本人が「ストレートが切れていた」と話すように、球場のスピードガンで145キロをマーク。力が戻ったストレートでねじ伏せつつ、タテに大きく割れるスライダーで軽くいなすピッチングも冴えた。「これまでは体の開きが早かったが、右足の動きで(開きを)抑えようとした」とフォーム修正が奏功。「(あと1勝で甲子園だが)あまりそういうのは気にしていないです。自分の野球をやればいい」と、普段同様に落ち着いていた。
試合後、倉野光生監督は「『勝って兜の緒を締めよ』ということで、一昨日の晩、寮の近くの山でカブトムシを4匹とってきて、(部員に見せながら)そのことわざを伝えました」と話し、報道陣を沸かせた。昨夏も決勝まで駒を進めながら、至学館に惜敗。今年は東邦が相手だが、「なるべくしてなった決勝戦」とがっぷり四つで戦う構えをみせた。
敗れた豊田西は3回裏、8番齊藤僚佑(3年)が右中間スリーベースで出塁し、9番土屋貴都(3年)が犠飛でホームに迎え入れ先制した。先発の小川裕太朗(3年)は、疲れがみえた後半こそ打ち込まれたが、序盤は90キロ台のカーブを有効に使い、緩急を生かした投球でピンチを切り抜けた。
(文=尾関雄一朗)