龍谷大平安vs京都両洋
背番号1を目指して
「最後はどうしても三振で決めたかったんです」
甲子園出場を決め、優勝メダルを手にした龍谷大平安の背番号10・田村嘉英はそう言って誇らしげな笑顔を浮かべた。
二死一塁と走者を置いた9回表のマウンド。
鋭く落ちた変化球に京都両洋の6番・浅木健照のバットが空を切ると、マウンドでバンザイして見せた身長185センチの田村の体が、あっという間に歓喜の輪に吸い込まれた。
「今日は田村がよく投げてくれました。この大一番に連投を託して、期待に応えてくれた。それは、田村の成長の跡と言ってもいいでしょう」
滅多に褒め言葉を発しない原田英彦監督が、珍しく賛辞の言葉を田村に送った。
入学時から周囲からの期待を集め、1年生のときからマウンドに立ってきた田村。
140キロを超える速球を操り、2年生だった昨夏は京都大会で背番号1。だが、甲子園でつけた背番号は10だった。甲子園では初戦(2回戦)の新湊戦で、ピンチの場面で二番手投手としてマウンドに立つも、相手の勢いを止められず、チームは敗れた。
以降、指揮官からの信頼度は下がるばかりだった。
選抜大会出場のかかった昨秋の府大会では、準決勝の立命館戦で自らの暴投がきっかけで逆転負け。
「試合の結果だけでなく、何をやっても覇気がない。練習態度を見ても、響いてくるものがない」と、原田監督は厳しい言葉を浴びせ、田村を突き放した。
そんな言葉を受け止めながら、冬場は黙々と走り込みに没頭した田村。「どれだけ走ったのか分からない」と言うほど自らを追い込み、自問自答する毎日の中で、信頼されるための答えを探し続けた。
田村に変化が表れたのは、今春の府大会前から。フォークボールを習得し、投球幅が広がっただけではない。練習に対する姿勢、マウンドでの立ち振る舞い―。
何事にも自分にしっかり向き合い、考えながら行動できるようになった。それでも指揮官は今夏も背番号1を与えなかった。
ただ、今夏の京都大会ではポイントとなる試合では先発マウンドに送り出した。
「背番号1をつけるために何が必要か、自分で感じてわかってほしかった」と指揮官。その期待通り、今夏のマウンドに立った田村の安定感は抜群だった。
この日もわずか1点のリードの中でも、慌てず怯まない。
6回に二死二塁の同点にピンチに対しても2ストライクまで追い込み、テンポ良く自信のあるフォークで空振り三振に斬って取った。
「自分の自信のある球で勝負したかった」と田村。
7回も走者を出しても得意の球で空振り三振に仕留め、ピンチを脱した。連投の疲れも感じさせない危なげないマウンドさばきは、頼もしく、大きく見えた。
「この夏は自分の良さは出せたとは思いますが、背番号1をつけられるかは…まだ力不足です。もっと粘り強さがないと」と自らを厳しく評した田村。それでも指揮官の目には鮮烈な印象を残したはずだ。
2度目の夏の大舞台は、昨夏の借りを返すことだけを考えている。
「まずは、初戦を勝つ。そのために自分のピッチングを甲子園でも見せたい」と前を向いていた。
「このチームは、田村だけでなく全員によく怒ったチーム。当初は跳ね返ってくるものがなかったけれど、少しずつ気持ちを表せるようになった。今夏、結果として跳ね返せたということは、それだけの力があったんでしょう」と指揮官は目を細める。
1月の肩の手術を経て調子が上がらないまま夏を迎えた4番の髙橋大樹は、注目をされながらもホームランにこだわらず、チャンスに強い打撃が光り、今夏の打率は5割を超えた。
「昨夏は結果が出ていたので気持ちとしては楽だったけれど、今夏は苦しみながらつかんだ甲子園。今年の方が価値はあります」と話した高橋。
昨夏の甲子園の経験者が多く残ったものの、秋以降に結果が出ず、もがいて悩み、辛らつな言葉をぶつけられながら、最後の夏にようやく掴み取った大舞台への切符。
だが、本当に龍谷大平安ナインが満面の笑みをこぼす場所は、また先の大きな舞台だ。
スターティングメンバー
【京都両洋】
5鍵田匡宏
8岩崎誠太
7釣井景太 (主将)
3菊地聖矢
4松岡孝典
9浅木健照
1横垣勝太
2川勝雅広
6中嶋勇也
【龍谷大平安】
8井澤凌一朗
4梅田響
3久保田昌也 (主将)
9髙橋大樹
7有田浩之
5前本飛翔
6基村侑也
2平城拓郎
1田村嘉英
(文=沢井史)