福翔vs太宰府
出し切った1回戦ボーイ
太宰府は面白い試合をした。
同好会として初出場した2007年から昨年までの間に、いまだ夏の勝ち星を挙げることができていないチームにとっては、開会式直後の[stadium]ヤフードーム[/stadium]といういわば“非日常的世界”の中で行なわれた試合となったが、その個性は充分に際立っていた。
相手は福翔。坂田将人(現ソフトバンク)を擁して優勝候補と目された祐誠を破り、5回戦進出を遂げたのが2010年。それ以来、頻繁に福岡県の4、5回戦あたりに顔を出しているいわば“格上”のチームといっていいだろう。
1点リードの3回、太宰府は一死から1番・浦志健太、2番・江口翔馬が連続四球で出塁すると、3番・安陪弘祐のカウント2ボール1ストライクから、相手の意表を突くダブルスチールを成功させた。二死となったが、4番・梅野喜光が福翔の先発・山本和樹から、一時は逆転となる2点適時三塁打を放つ。ここで太宰府の門岡弘監督は「行けるのであればチャレンジしていい」というサインを送っている。
サインが送られた先は、打席の5番・堀脇康聖ではなく、三塁走者の梅野である。
「直近の練習試合でも梅野は成功させていますからね。ここでも彼の判断に任せてみました」
梅野が「行ける」と判断し、チャレンジに踏み切ったのは堀脇の3球目だった。2ストライクからワンバウンド気味に外れた1球に対して、梅野は躊躇なく突っ込んだ。
ホームスチールだ。
結果的には失敗に終わったが「あれがウチのスタイル。問題ない」と門岡監督は何度も頷いた。
「ウチは専用グラウンドがなく、充分な打撃練習や守備練習ができません。となると、自ずと走塁練習に割く時間が増えてくる。そうした中から生まれたアイデアをゲームに活かす。あの回の攻撃は、ウチらしい点の取り方だったと思います」
内野手は至近距離でのクイックスローを余儀なくされ、外野手は捕球後の送球スペースがないため、足元に置いたかごにボールを入れているというチームにとってみれば、1失策は上出来か。
ただ、さすがに不慣れな密閉空間の中においては外野手のポジショニングに苦慮する場面が目立ち、失策にはならずとも本来であれば打ち取っている打球を安打にしたり、長打にしたりというシーンもあった。
「ベンチの私はとくに外野の打球に対する距離感が掴めないまま終わってしまったのですが、選手たちはドームに順応していたと思います。目測を誤ったり、ポジショニングを誤って安打を許すという場面もありましたが、それは開幕ゲームや会場に呑まれていたからじゃない。どの会場の何試合目にやっても、夏の初戦は独特の緊張感に襲われるものです」
太宰府にとっての6度目の夏は、またしても初戦敗退に終わった。それでも過去5年で3度のコールド負けを喫した1回戦ボーイは終盤7回まで2対2の同点で粘り、その得失点シーンの中で存分に持ち味を出し切ったのである。
(文=加来 慶祐)