鹿児島実vs伊集院
攻め続ける気持ち
伊集院が強豪・鹿児島実に挑むキーワードは「攻める」(内野公貴監督)だった。
「引くな! 攻めろ!」
試合中、内野監督は言い続けた。
その象徴が強打である。送りバントをしたのは5回の1度だけ。あとはひたすら強打で攻め続けた。15安打で7点は効率のいい攻めとは言い難い。
例えば2回一死一塁の場面はプッシュバントを試みて、併殺になっている。5回一死一、二塁では4番新郷翔太(3年)の当たりはピッチャーゴロ併殺だった。
強打の野球にはそのリスクが常につきまとう。それでも攻め続けるか、それとも攻め方を変えるか、そこに監督の力量やチームの目指す野球の哲学がある。
この日の伊集院は最後まで攻める野球を貫いた。それが結実したのが7回の4点だった。
先頭の1番池田賢史(2年)がレフト前ヒット。2番德澤昂洋(3年)はバントと見せかけつつの流し打ちで内野安打。ここで鹿児島実・福永泰志(2年)を引っ張り出す。
ここから四球、犠牲フライ、ライト前ヒット、レフトオーバー二塁打、連続四球で押し出し…打者10人で4点を奪い試合をひっくり返した。
「落とせ!」「下を意識!」…そんな言葉がベンチの監督や選手から聞こえる。
勢いに乗れば乗るほど、気持ちは冷静に、意識を下に落として、下半身を柔らかく使って低い打球を打つ。力まず、空振りを狙ったボール球を見極め、「後ろにつなぐ」打撃を心掛ける。伊集院が目指していた野球のエッセンスがこの回に凝縮されていた。
三番手で登板して試合を立て直した大迫琢真(3年)はこのとき「みんなの気持ちがひとつになったことを感じた」という。
ただひとつ、内野監督が後悔しているのは、8回裏に再び同点に追いつかれた直後、4番横田慎太郎(2年)に打たれた場面だ。
2ストライク簡単に追い込んで、「高めの釣り球で外しにいった」(大迫)3球目を左中間に持っていかれ、勝ち越しの二塁打に。普通に守っていればセンターフライの打球だったが、次のボールで勝負するために右寄りにポジショニングしていた分、センターが追いつけなかった。打たれた動揺を見透かされたように5番徳永翔斗(3年)に初球をライト線に運ばれ、2点差になった。
「歴史を変えるぞ!」
9回の攻撃に移るナインに、そう檄を飛ばして内野監督は送り出した。
地方の県立高校が、鹿児島実や樟南、神村学園といった強豪校に勝つために練り上げてきた野球で、最後まで挑み続けたが、あと1点届かなかった。敗れた試合だからミスや思い通りにいかなかったこと、反省すべき点は後からいろいろ出てくるだろう。
「歴史」は変えられなかったが、「その過程は間違っていなかった」(内野監督)ことを確信させてくれた夏になった。
(文=政純一郎)