鹿児島実vs鹿屋
ひとり舞台
鹿児島実・徳永翔斗は1年時に夏の甲子園でサポートメンバーとして帯同し、昨春選抜大会ではベンチ入り。その後の九州大会では秋春連覇の立役者となるなど、鹿児島実のエースとして君臨する左腕投手だ。
初戦の相手となった鹿屋のエース・照屋和輝は、同じ鹿屋東中出身で、当時は照屋がエース、徳永が二番手という位置づけであった。
照屋は140キロ超の直球と落差の大きなフォークボールを武器とし、昨春の九州大会では選抜大会準優勝の九州国際大付を撃破。そんな両者の対戦だけに、この日の鴨池市民球場は平日とは思えない観客の入りを見せ、1回戦屈指の好カードを見守ったわけである。
試合は、まさに鹿児島実・徳永のひとり舞台といっていい展開になった。
勝利したのは徳永で、鹿屋打線を被安打4に抑えての9回完投。しかし、要した球数は178で、許した四死球は11。うち、死球が6個もあり、6回には1イニングでふたつの死球を与えている。
これだけ荒れたことが、結果的には鹿屋打線に“踏み込み”を阻止する効果にも繋がったわけだが、9回二死からの連続四球などを見ても分かるように、リズムの悪さを終始拭えることはなかった。
徳永の投球リズムは味方の守備にも伝染し、2回に先制点を奪われたシーンも味方の失策、野選(フィルダースチョイス)が続出している。
試合後、鹿児島実・宮下正一監督は徳永を呼び寄せ、きつくお灸を据えた。
「これが初戦の硬さと言えば、そうなのかもしれません。それにしても、今日の内容はいただけない。本当は5対1となった時点で一気に試合を決めなければいけなかったのに、もたついてしまったのは徳永の四死球が原因です」
蒼白の徳永がアイシングをしながら投球を振り返った。
「大会前にフォームのバランスを崩し、上半身の突っ込みを押さえようとやや手投げになってしまっていたんです。もともと自分は大会の初戦や立ち上がりに苦しむタイプなのですが、そのあたりの波を作らないように、これから大会の中でしっかりと作り直していかないといけません」
力強い右足の踏み込み。遅れて出てくる左腕。球持ちの良さが身上の徳永だったが、左腕のスイングが遅れすぎてしまうのだ。そのあたりの乱れを修正しようという気持ちが先行しすぎ、右肩が開き、シュート回転した球が打者を直撃。リリースポイントがまばらなまま、試合は終了してしまった。
「次に進めたことで、今日よりも良い徳永が見られると思う。やってくれるでしょう」と宮下監督は前を向いた。
あとはエース左腕本人が、いかに自分自身の能力を信じていけるかだ。
打者・徳永は4回に2点タイムリー三塁打、9回にはライバルの照屋から試合を決定づけるライトオーバーの特大ソロ本塁打を放ち、存在感を見せ付けた。
とにかく、あらゆる面で目立ちすぎた初戦の徳永だった。
(文=加来慶祐)