智辯学園vs桜井
20人の選手全員出場
奈良桜井が昨夏の決勝に続き、智弁学園に敗れた。
投打に力の差を見せつけられての完敗だった。
「力がないから負けるわけであって、智弁学園は良いチームだった」と森島伸晃監督は淡々と振り返った。
とはいえ、今年の奈良桜井は、ある意味において、昨夏に続いて一つの目的は達成した。
それは、ベンチ入り 20人の選手全員が大会を通して出場したことだ。
意外に思われるかもしれないが、これが結構、できないチームが多い。
奈良桜井は、それも、 2年連続で果たしたのである
「勝つことも目指すけど、こういうこともやる」と森島監督は語る。
1回戦の奈良高田戦では、3点リードの 9回裏二死二、三塁から一度に7人の選手を交代させた。
選手の多くを試合に出場させるために、大差や敗色濃厚の展開で起用することは頻繁にあるが、森島監督は僅差のリードでも厭わない。
指揮官が肚を据えて、采配を振るっている。
リードしている展開で、選手を交代させて負けたとしても、森島監督は「それが実力」と堂々と構えていられるのだ。自分への批判から逃れる、負けることを恐れぬ姿勢は、人の上に立つ人間として、あるべき姿勢を指し示している。
とはいえ、奈良桜井が全員出場を果たすために、勝利を棄てているわけではない。
この日の試合でも、9回を迎えて1対7のビハインドから代打攻勢を仕掛けたが、試合を棄ててはいなかった。
キャプテンの岩倉昂佑は言う。
「誰が出ていたとかは関係ないんです。ベンチは誰も諦めていなかったし、最後に代打攻勢で1点を取れたのは良かった」
奈良桜井ナインには全てを受け入れるという気持ちが浸透している。
大会1か月前に一時はメンバーから漏れ、最後にショートのレギュラーをつかんだ片平郁也は、
「メンバーを外された時は、悔しい気持ちもありましたけど、自分はメンバーに入れても、入れなくても、残りの高校生活を一生懸命やるだけだと思っていました」と言う。
片平は、1回戦でスタメン出場し、ウイニングボールをさばいた。
人生は甘くない。だが、投げ出してはいけないのだ。
昨年に引き続いて、智弁学園の壁を超えることはなかった。
しかし、彼らは2年連続して20人の選手がグラウンドに立つということをやってのけた。
なかなかできたことではない。全国でも稀有ではないだろうか。
「勝った負けたで終わってしまったら、何もつながってこない」との森島監督の言葉に呼応するかのように、片平は三年間をこう振り返る。
「高校野球は僕にとって、やってきたことの確認でした。大会を終えて、自分たちのやってきたことが間違いではないと分かりました。自分を信じてやり続ければ結果は出てくる。ここで終わりじゃなくて、やってきたことをこれからの人生で続けたいと思います」
昨年は準優勝、今年は2回戦敗退。それでもひとつの目的は達成した。
「勝つことだけでなく、両方やる」
森島監督の言葉にしたためられたこの偉大なる目標―――。
奈良桜井なら、達成してくれそうな気がする。
(文=氏原英明)