光星学院vs大湊

悲願の甲子園へあと一歩　～見えてきた成長と課題～

勝負を、していた。
この試合、大湊が無死の走者を出したのは五度。けん制悪送球で三塁に進塁した一度を除くすべて、工藤公治監督のサインは「ヒッティング」だった。工藤監督は言う。
「展開としては、5点で抑えて、6点を取ろうと考えていました。光星学院にエラーは出ないし、奇襲も通用しない。かといって、（バントで）送っても1点しか取れませんから。1点リードしてもしかたがないと思っていました」

昨秋の青森大会では決勝で3対21と屈辱的な敗戦を喫した。
「ずっと光星学院と言って練習してきました。意識してきました」
140キロ近い球速を誇る金沢湧紀、城間竜兵の二人の投手を打ち崩すため、速い球を打つ練習をしてきた。光星学院戦を想定して、練習試合から無死一塁の場面でヒッティングの練習も重ねてきた。そのときに意識するのは大きく二つだ。
「まずは相手のポジショニングを確認すること。それと、ゲッツーを怖がらないことですね」
相手の守備体系やポジショニングを確認したうえで、併殺打を恐れずに思い切ってスイングする。当てにいく打撃はいらない。あわよくば、長打で1点という狙いだ。

だが、この日はその成果が出せなかった。
2回こそ5番の濱谷雄大が初球を叩いてライト後方へ大きなフライを打ったが、4回はカウント1ボール1ストライクからのヒットエンドランを一塁走者が見落とし。ショートゴロで併殺打になった。
7回は8番の野口幸太郎が強い当たりのサードゴロを放つが、光星学院・大杉諒暢ははじいた球を素早く拾って一塁送球。あわてなかった。
8回は3番の伊藤祐平が三振。好機を広げることができなかった。
「もっと打てると思ったんですが……。光星学院のピッチャーは外のコントロールがよかった。もう少しアウトコースの見極めに時間をかければよかったです」

一方で、守りでは及第点の結果を出した。試合前に工藤監督が「4、5点で抑えたい」と言っていた通り、5失点。5回までは1失点だった。
秋と比べれば、雲泥の差。秋は2回に5失点、4回に7失点、7回に6失点した反省から1イニング3失点以内を掲げてき。無理に併殺を狙わず、取れるアウトを確実に取る。そう心がけてきた通り、この日は6回の2失点が最多だった。
「秋は我慢ができなかった。東北大会が決まってホッとしたところもあったかもしれません」と工藤監督。
いくら能力の差があったとしても、21点も取られることはそうあることではない。なぜ、そこまで失点を重ねてしまったのか。キャプテンの佐藤航は気持ちがキレてしまったことを認めたうえで、こうつけ加えた。
「点を取られたりしたら声が出ない。（ベンチも含め）静かになっていた。練習試合からピンチでは『全員でやろう』と言って、雰囲気を作ることを意識してきた」

終盤に加点されたが、5回には二死二塁からのセンター前ヒットで本塁を狙った城間を佐藤が好返球でタッチアウトにするなど、中盤までは粘った。
「21点がなんとか5点に収まった。ストレート待ちのバッターにストレートを投げてしまうなど、ピッチャーのコンビネーションに悔いが残りますが、守備の方では思っていたことができたかなと思います」（工藤監督）

スコアにも表れているように、秋からは大きく成長した。だが、大きな課題もある。
「ここ1球ですかね。想いというか。光星学院は我慢ができる。苦しくなれば苦しくなるほど力を発揮する。そこがすごいですよね。ウチは、せめてあと一本出ていれば……」

大湊にもチャンスは何度もあった。2回には野口のレフト前ヒットで同点に追いついた後、さらに一死満塁だったが、9番の金澤真太郎がセカンドフライ、1番の佐藤が三振。3回は無死一塁から相手のけん制悪送球によって無死三塁と絶好の場面を迎えたが、3番の伊藤祐平、4番の櫛引哲生が連続三振。5番の濱谷もレフトフライに倒れ、クリーンアップで点が取れなかった。

「金澤のときはカウントによってはスクイズも考えましたが、すぐに打ってしまったので。クリーンアップは期待しているので、（打たせたという）采配に悔いはないです。気持ちの強い3人ですが、やはり、気負いすぎたんでしょう。心は熱く、頭は冷静にと言っていたんですが、裏目に出ました」と振り返った工藤監督。

伊藤は初球のボール球を空振りし、2球目のストレートを見逃して2球で追い込まれた。櫛引は2球続けてストライクのストレートを見送った。2回二死満塁の場面では、一番の佐藤も2球変化球を見送ってあっさりと追い込まれている。
「なぜ見送ったか？　苦手な球だっただけです」
佐藤はそう言ったが、満塁の場面で簡単にストレートで取りに来る投手は全国レベルではいない。積極的に打っていく姿勢が必要だった。

もうひとつ、守備でも惜しまれるプレーがあった。
1回、一死一塁で北条史也の詰まった打球はフラフラとレフト線へ。長打警戒でフェンス手前に守っていた櫛引が懸命に追いかけるが、中途半端になり後逸。三塁打にしてしまい、先制点を許した。
一塁走者は決して足が速くない田村龍弘。落ち着いて処理していれば、二、三塁で止めることができた。光星学院への想いが強い分、意識しすぎたようにも映った。
「（飛び込むなど）勝負をかけるのかどうか、迷ったんだと思います」（工藤監督）
積極的にいく場面なのか、無理をしないでいい場面なのか。冷静に判断することができなかった。

地元のむつ市から大応援団もかけつけ、光星学院・田村も「声援と一体感があった」と口にした大舞台。甲子園が見えてきた準決勝で、相手が目標にしてきた光星学院。甲子園などで大舞台慣れしている光星ナインと下北半島で育った大湊ナインとの差が、精神面に表れていたように感じた。工藤監督は言う。
「確かに、田舎なのでおとなしい子が多いです。でも、それはいいところでも、悪いところでもあると思っています。素直で一生懸命なところは崩したくはない。ウチらはウチららしく、元気でひたむきというスタイルでやっていきたい。技術には限界があるが、心は無限大ですから。公立でも、効率よくやればなんとかなる。公立だから……といつまでも言っていても仕方がない。（私立相手には）打ちにいかないと勝てない。ゲッツーは監督が悪いんだぐらいの感覚でいかないといけないと思います」

試合後の口ぶりや表情から、キャプテンよりも監督の方が敗戦を悔しがっているように見えた。工藤監督の目には涙も浮かんでいた。
秋の大敗以降、選手たちも本気でやってきた。あいさつやごみ拾いを徹底。「落ちているゴミはヒット一本分」「ゴミは運。運を拾え」を合言葉に継続してきた。生活面から見直し、取り組んできた。からこそ、成長できたことは間違いない。

だが、それよりも監督の方が想いは強かったように感じた。その差をどれだけ埋められるか。田舎の子たちにどれだけ闘争心を植えつけられるか。そこが、05年に49歳で亡くなった富岡哲前監督から受け継がれる「下北半島から甲子園」という地域の夢実現のカギになる。

2009年は決勝で青森山田に3対4で敗戦。そして、今年は準決勝での敗退。あと一歩のところまで来ている。
「こういうゲームを夏にできた。もう一回勝負したい。三度目。計画性を持って、勝負をかけたいと思います」
悲願の甲子園へ――。
工藤監督の挑戦は続く。
　

(文＝田尻賢誉)