試合レポート

報徳学園vs市立尼崎

2012.07.24

1点の重み

あの時と同じだった。

昨夏の兵庫大会準々決勝の神戸国際大附戦。3対2と1点のリードをもらい、9回表のマウンドに立った報徳学園のエース・]田村伊知郎
だが、疲労からか浮いたストレートとスライダーを捕えられ、5連打を浴びて3点を失った。結局チームは逆転負けを喫し(3対5)、夏の甲子園切符を逃した。

「1点のリードを守りきれなかった自分のピッチングに、今でも悔しさはあります。だからこそ、1点の重たさは感じています」と語る田村。

この日は1対0で迎えた9回表。二死を取った後、四球と安打で一、二塁に走者を置いたが、9番辰己大志からキレのあるストレートで空振り三振を奪いゲームセット。その瞬間、クールなエースが滅多に見せないガッツポーズを見せた。

「この1点はどうしても守らないといけなかった。気持ちを込めて投げたのでつい感情が出てしまいました」。140球を投げ切ったエースは、試合後そう言って笑みをこぼした。

この試合はもうひとつの因縁があった。市尼崎と報徳学園は昨夏も2回戦でも顔合わせしており、しかも同じ[stadium]ベイコム球場[/stadium]。先発マウンドも今日と同じく田村と瀬戸茂孝だった。

結果は2対0とリードされていた報徳学園が、6回に集中打を浴びせて5対2で勝利を収めた。
「リベンジしたいという思いは強かった」という瀬戸。

1回は三者凡退で切り抜けた田村に対し、瀬戸は力みからかヒットと2四死球でいきなり満塁のピンチを作ったが、迎えた6番片濱大輝に低めの球でサードゴロに仕留めた。
「ここから何とか乗っていこう」
以降は、自慢のストレートで報徳打線を手玉に取った。再三のピンチも内角を強気に攻め、連打を許さなかった。


だが、4回裏の瀬戸のマウンド。先頭打者の5番・田村にライトオーバーの二塁打を許し、犠打で三塁に送られたのち、連続四球で満塁。ここで好調の1番佐渡友怜王を迎えた。
フルカウントまで来たところで際どいコースを狙ったが、やや外れ、結果は四球。押し出しで三塁走者の田村がホームを踏んだ。

「あの場面でしっかり投げられていたら…」と瀬戸は唇を噛みしめた。
7回を投げ、許したヒットはわずか4本。8回からバトンを受けた2年生左腕・金田甲志も無死満塁のピンチを抑えるなど、何とか流れを市尼崎サイドに手繰り寄せようとしたが、報徳・田村の粘り強いピッチングに何度も跳ね返された。

9安打を浴びながらも要所をしっかり締めた田村。左方向への強いゴロを、ショートの佐渡友怜王が幾度もアウトに仕留め、チームを盛り立てた。
両エースの息が詰まりそうな投手戦は、押し出し四球で挙げたわずか1点が勝敗を決めた。
だが、「秋以降、調子の悪い時期もあった中、今日はよく投げてくれました。責める場面なんてありません」と砂川洋監督はエースをかばった。

試合後、瀬戸の目には涙はなかった。
「自分のせいで負けたので、自分が泣いたらチームのみんなに申し訳ない。今日は力を出し切れました」とやや、満足そうな表情を見せたが、「ピンチで低めに投げられるか、投げられないか。田村君はそれが出来ていたけれど、自分は出来なかった。今日の試合はその差でした」と振り返った。

1点のリードを守る難しさ、厳しさを知るからこそ、ボールに気持ちを乗せて果敢に攻めた孤高の右腕。
最後に見せた雄叫びは、その厳しさを知る者にしか分からない感情表現だった。

勝負に勝った田村伊知郎がひとつ、階段を登った。

スターティングメンバー
【市尼崎】
8山口翔
6井口侑哉
3堺己生 (主将)
9野村隆将
7中野慎之介
5藤田一輝
5新井健太
2瀬戸茂孝
1辰己大志

報徳学園】 (主将)上野太一
6佐渡友怜王
5岸田行倫
4永岡駿治
9吉田昌矢 
1田村伊知郎 
3片濱大輝
2中村寛
7伊地知悠真
8勝岡静也 

(文=沢井史)

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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