滝川第二vs社

“あと1回”の怖さ

9回表を迎え、点差は5点。だが、滝川二のマウンドにいたエース・佐藤智貴は相手の気迫にやや押されていた。
「昨日からの連投で疲れがピークでした。コントロールが甘くなって先頭打者にデッドボールを与えてしまい、嫌な感じがしたんですけれど…」

続く9番の玉川隼輔のバントヒットで走者を2人出し、ピンチがさらに広がった。続く打者を外野フライに打ち取ったものの、2番田中大貴に左中間を破る二塁打を打たれ、2点を与えてしまった。
そして3番の近本光司にはライト前ヒットで一、三塁。点差は3点だが、次は4番の藤井秀斗。さらに5番の中島大志には、前の打席で二塁打を浴びている。長打が出れば、流れは分からない。

思わずマウンドに駆け寄った捕手の大杉勇斗が、佐藤にこう声を掛けてきた。
「お前、焦っているやろ？」
そう言った大杉の表情も、明らかにこわばっていたという。
「でも、それが反対に良かったんです。お互い焦っている表情だったので反対に笑ってしまって余計な力が取れました。ここからピンチを楽しむことができました」

負ければ終わりの夏の大会で、ピンチを楽しむにはよっぽどタフなメンタリティを持ち合わせていないと容易ではない。でも、佐藤はそこからギアを入れ替えた。
藤井をファーストのファウルフライ、中島をショートゴロに打ち取り、ゲームセット。点差があったとはいえ、最後まで緊迫した展開だった試合を「社さんは打撃があるし、最後までわからないとは思いました。佐藤は疲れがある中、最後までよく投げてくれた」と滝川二・渋谷卓弥監督はエースをねぎらった。

機動力と攻撃力を兼ね備えた社に対し、「早くから5点を取って主導権を握っておきたかった」と渋谷監督。その通り、序盤から小刻みに得点を重ねたが、初回の二塁打2本を除けばほとんどがスクイズやバントヒットで挙げたもの。これまで豪快な打撃力を誇ってきた滝川二は、明らかにモデルチェンジしていた。

「見ても分かるとおり、うちの選手は体格も大きくないし、大きいのを打てる打者がいないので、小技は重視しています」と指揮官が話すように、練習では打撃の合間のバント練習は綿密に行う。3分間の打撃練習のうち、1分間はバント。それがちゃんと出来ないと、打撃練習を続けられないという決まりごとがある。

今日の試合では、走者が出ればセーフティバントを徹底し、足で得点も重ねた。
新しいスタイルでベスト4まで登りつめたが、ここからが正念場だ。
「ここまで来たら、どこと戦っても一緒。次の相手（報徳学園）はすべてにおいて1枚上なので、胸を借りるつもりでやりたい」と指揮官。

最後に野球の怖さを痛感したエースも「背番号1の自分がチームを引っ張って上を狙いたい」と汗をぬぐった。

13年ぶりの夏の頂点まで、あと2勝だ。

スターティングメンバー
【社】
8吉田康祐　　
6田中大貴　
9近本光司
3藤井秀斗　
7中島大志　
4川居直人　(主将)
2恩庄遼斗　
1谷口大空
5玉川隼輔

【滝川二】　
6森潤司　
4松尾幸平
7藤川弘樹
3馬場修平
8澤田昌吾　(主将)
2大杉勇斗
9押部功暉
5竹上裕一郎
1佐藤智貴

(文＝沢井史)