尽誠学園vs高松商
わずか3球。挟めなかった間合い
高松商業のエース谷川宗(3年)は抜群の立ち上がりで、5回を終わり被安打0。5三振を奪う上々の出来だった。3回に見方の拙攻があったものの崩れず、最速137キロのストレートが冴え渡っていた。
だが、グランド整備が終わった6回、尽誠学園の攻撃。状況が一変する。
先頭打者を四球で歩かすと、続く打者の犠打。右前で1死1・3塁に。
初めて訪れたピンチに、打席には尽誠学園の主砲、3番の西丸泰史(1年)。谷川にとっては中学時代(三木中学)、一緒に汗を流した後輩だ。
「先輩として、打たれるワケにはいかない!」
スクイズも警戒する初球、際どくコースを外して様子を見るも、盗塁を決められる。得点圏にランナーが2人。谷川にさらに力が入る。
そして1ボールからの2球目。谷川がこの日、最も調子がよかったストレートを内角へ投じると、狙った場所よりも少し高めへ。すると西丸のバットが一閃。勢いよく上がった打球は、ライトスタンド後方に消えた。
右越え3ラン。
初ヒットから盗塁、本塁打まで、わずか3球。一瞬の出来事だった。
「この試合は冷静に行こう、冷静に行こうと選手に言い続けたのに、私が一番バタついてしまった。谷川が投げた、あの一球だけが悔やまれる。谷川の性格を十分に知っているだけに、走られて2・3塁になった時に間を置いてやれば。私の責任、申し訳ない。ただ、ホームランを打たれた球は失投ではなく、素晴らしい球だった。本塁打を打った西丸君が見事でした」と高松商業の黒坂季央監督。
3点を先制された高松商業は終盤、気持ちの伝わる粘りを発揮し2点を返すも、あと一歩のところで悲痛過ぎる結末を迎えた。
「野球は難しい」。
思わず漏らした黒坂監督。
間髪も入らないと思われた6回表の3球。
指揮官はいつまでも自分を責め続けた。
(文=和田雅幸)