西尾東vs豊川
「相手より少ない安打で勝つ」10盗塁でまだまだ続く快進撃
ともにノーシードながら、ここまで勝ち上がってきた同士の対戦となった。
もっとも、ノーシードといっても豊川は昨年もベスト4で、03、04年には決勝にも進出している。何度も甲子園に手が届きかかっている、私立の強豪校である。
一方の西尾東は、昨年秋は西三河地区二次トーナメントで敗退して県大会出場もならなかった。プロ野球の中日・岩瀬仁紀の母校ではあるものの、ごく普通の公立校である。チームを率いる寺澤康明監督は、その岩瀬の1年後輩だった。その時以上の快進撃で、前日の5回戦では強豪享栄に完封勝ち。寺澤監督としても、「よく、ここまで勝ち上がってきた」というのが本音である。
西尾東のマウンドには、連投となる畔栁晋太郎が上がった。体も大きくなく、体を回して背中を向けてからスリークォーター気味に投げてくる球は、決してスピードがあるわけもないので、一見何でもないようにも見える。しかし、右打者からスーッと逃げていくようなスライダーが効果的で、ここまで抑えてきたようだ。それに、打者からすれば球の出処もややわかりにくいというのが特徴である。
これに対して豊川は金城グスターボがスピードのあるボールを投げている。ただ、制球に難があり、1回は四球の走者をバントと盗塁で進められ、内野ゴロで1点が入った。それでも、3回までで7三振を奪っていた。しかし、4回には死球の走者がバントなどで三塁まで進み、暴投で2点目が入り、結局、森昌彦監督は、二死三塁となった場面で金城を諦め、二番手として森口練太郎を送り込んだ。その代わり端に9番の小林康平がヒットを放ち3点目が入った。こうして、試合は、西尾東のリードで進んだ。
その裏、豊川は2年生ながら好打者と評判の久保田幸輝のレフトへのソロ本塁打で1点を返すものの、西尾東は5回にも二死満塁から暴投で追加点。
豊川も1点ずつ返していくものの、粘り強い西尾東の畔栁の投球に、やや焦りもあるのか、もう一つ打ちきれない。7回も同点の走者を許したが、二死二塁でけん制で刺すなど落ち着いていた。暑さの中で連投となり、疲れもあるのだろうが、マウンド上では落ち着いていた。
寺澤監督は、「本当は(畔栁は)疲れているのでしょうけれども、本人が頑張っていますから、後半になっても『ボールは変わっていないから、自信持って行け』と送り出していました。そうやって行かせる監督も酷なんですけれどもね」と言いながらも、嬉しそうだった。
相手の方が力が上だということはわかっていたので、監督としてもベンチ内では、ムード作りに終始したというが、終始積極的な走塁は光った。「相手よりも少ない安打で勝つ」という野球を目指す西尾東は、結局10盗塁5安打で、7安打の豊川を6対3と倒したのだから、目指す野球が出来たということである。
力のある3人の投手を擁し、守りの野球で勝ち上がってきた豊川だったが、2年連続のベスト4進出目前での涙となってしまった。
結果的には、相手のやりたい野球をやらせてしまい、その勢いに押されてしまった。追いつけそうで終始リードを許してしまっていた展開も、豊川にとっては厳しかった。
(文=手束仁)