大阪桐蔭vs東大阪大柏原
エースと心中した戦略の理由とは???
福山、福山、福山…
3日連続の試合となった東大阪大柏原の先発マウンドには、今日も、エースの福山純平が立っていた。
「昨日、勝たなければ、今日の大阪桐蔭との挑戦権は得られないわけですから、一昨日もそうでしたが、昨日も今日も福山でいきました。今大会は全試合を福山に投げさせるつもりだったし、去年も5日間で4試合は彼が先発しました。特に問題は感じていなかった」と東大阪大柏原の田中秀昌監督は、エース3連投の理由をそう説明した。
疲れがあったのか、なかったのか。
打たれれば、周囲はそこに原因を持っていきがちだが、指揮官も、また、本人も、今日の敗因を疲れから来るものだとは捉えていない。
むしろ、これまで、チームを引っ張ってきた福山で心中し、散っていった潔さが東大阪大柏原にはあった。
試合は1回からエース福山と強打の大阪桐蔭打線が真っ向からぶつかり合った。
1回表、大阪桐蔭の先頭の打席には2年生の森友哉。
実は、昨秋府大会の決勝で対戦したとき、森は先頭打者本塁打を放っている。そして、試合はそのまま大阪桐蔭が圧勝した。
そんな森に対し、福山は「昨秋に先頭打者本塁打を打たれていたので、大胆に攻めていった」と想いをこめて、空振り三振で仕留めた。
しかし、2番大西友也に四球を出すと、3番水本弦にライトスタンドに運ばれた。
「福山の球は高かったと思います。けど、それを打ち損じない。さすがは、選抜で日本一に輝いたチームです。素晴らしいバッティングやと思います」と田中監督は相手を称えた。
3回表には、二死三塁で田端良基と真っ向勝負。
制球が乱れて3ボールとなるが、そこからでも福山は勝負を挑んだのだ。
アウトコースでカウントを取って、インサイドへのまっすぐでファウルを奪う。3ボール2ストライク。勝負に行った。
ところが…勝負球のスライダーは少し高めに浮いた。
田端は詰まりながらも、執念でセンター前へ運んだ。
福山はこの勝負には負けたが、実は、この日の福山と田端の勝負には全5打席、見ごたえがあった。
1打席目はライト前ヒットで田端が勝ち、この2打席目が執念のセンター前タイムリー。3打席目はインコースを狙った福山のストレートが乱れ、死球。4打席目がストレートで押してのショートフライ。そして、最後は無死三塁からショートゴロに抑えた。
「(田端は)いいバッターなんでどれだけ自分の力が通用するか試したかった。逃げるつもりはなかった」と福山は田端との勝負を振り返った
とはいえ、チーム勝負となると、圧倒的に福山は後れを取った。
5回表には両者のチーム力の差が浮き彫りになる。
一死二塁で打席には水本。1ボール1ストライクからの3球目を上手く詰まらせ、センターへのフライ。
しかし、この打球が風にあおられ押し戻されると、センター前ヒットとなった。
この場面での守備は仕方がない。だが、大きく違いを分けたのはヒットの後である。大阪桐蔭の走塁が見事だったのだ。
二塁走者の森は打球が落ちると判断すると、スタートを切り、ホームに生還。打者走者・水本も二塁を陥れた。 打ち取った打球がヒットになった上に失点し、また同じ状況が続いたのである。
「ピッチャーにとっては、アンラッキーなヒットだったので間をとった」と田中監督は、すかさず、伝令を送ったが、2つの四死球のあと満塁となると、7番笠松悠哉にレフト前へ運ばれた。東大阪大柏原にとっては重くのしかかる2点だった。
東大阪大柏原打線は6回裏に、大阪桐蔭の守備陣のミスに付け込み1点を返したが、後続は続かなかった。8回裏には大阪桐蔭のエース・藤浪晋太郎が突如制球を乱し、二死満塁と攻め立てたが、畳み掛けることはできなかった。
逆に9回表、大阪桐蔭は1死・三塁から5番・安井洸貴がライトスタンドにどでかい一発。
福山、ならびに東大阪大柏原の敗戦を告げるかのような痛烈な打球だった。
「ウチのチームは福山に引っ張ってもらうチームでした。そうならんようなチーム作りを目指して来ましたが、結局、乗り越えられなかった。福山はよう投げてくれたと思います。初の甲子園に連れて行ってくれたのも、秋に初めて近畿大会に連れて行ってくれたのも、福山純平の存在があったから。今は『お疲れさん』と言いたいですね」と指揮官はひとりでチームを引っ張ったエースをねぎらった。
福山の目に涙はなかった。
悔いがないわけではないが、力を出し切った彼なりの主張だったのかもしれない。
「大阪桐蔭には勝ちたかったので悔しいですけど、全力を出し切れたので悔いはないですね。高校から投手をはじめたのですけど、勝った時の喜びや、負けた時の悔しさを感じる一番のポジションはピッチャーやと思うし、野手だったら、ここまでの想いはしなかったと思う。高校3年間でいい経験をさせてもらったと思います。上でも野球を続けたいので、いつプロに行けるかは分かりませんが、これからの目標にしていたいですね。今後、意識するのは藤浪だけではないですけど、負けるのは好きじゃない。今度対戦した時は勝ちたいですね」
お互いのチーム力の差は確かにあった。
だが、チームの全ての中心だった福山と心中を選んだ東大阪大柏原の戦いは潔かった。
グッドルーザーだった。
(文=氏原英明)