野球解説者 桑田真澄 さん
PL学園高時代は、春夏合わせて5度の甲子園出場。さらに1年夏と3年夏の甲子園で、優勝を果たした桑田真澄さん。高校時代に大きな実績を残して、1986年に巨人に入団。2007年には、アメリカに渡り、ピッツバーグ・パイレーツでプレー。
23年間に及ぶプロ野球選手生活を過ごしてきた桑田さんは現在、野球解説者ならびに、東京大学野球部の投手コーチなども務めている。そんな桑田さんから、今回は高校球児のみなさんへ熱いメッセージをいただきました。
■MLB経験者からの特別寄稿!
ボストン・レッドソックス 上原浩治 選手 (後編)
ボストン・レッドソックス 上原浩治 選手 (前編)
自分らしさとは何か?を考え抜こう!
――桑田さんはこれまで、色々な練習方法を見出したり、新しいことにも積極的に取り組んでこられた印象がありますが、どうしたらそのような野球へのアイディアが浮かんでくるのでしょうか。
桑田真澄さん(以下「桑田」) まず、考えることですね。僕は、野球界にずっといますが、野球が上達する=体力と技術の勝負だと、みんな思い込みすぎなんです。野球は、頭も必要です。
たくさん練習したら上手くなるとか、量と時間をかければ上手くなると錯覚しているんですよね。
でも実は、野球が上手くなるには頭も重要です。身体が小さいけれども、エースになるにはどうすればいいのか。自分自身で考え抜いた時に、練習量と時間以外にも上手くなる方法はあると気付いたんです。
僕が、それに気付いたのは高校時代でした。そこにいち早く気付けたのは、野球選手として成長する上で本当に大きかったと思っています。
――なぜ、桑田さんは高校生の時に、そこに気付くことができたのでしょうか?
桑田 僕は小学校の頃から、『これでいいのかな?』とずっと考えながら練習してきたんですよね。それで高校に入って、「このままみんなと一緒に猛練習をしていたらつぶれてしまう」と思った。でも、周りを変えるには時間がかかるから、自分が思ったことを自分でやり切ろうと思いました。それがきっかけですね。
「自分らしい練習が上達の鍵です」
――今は、インターネットでも、色々な情報が手に入る時代。高校生が自分自身で取捨選択して、読み取って、自分の考えを見つける力が必要になってきました。そのための『自分の軸』というのは、どのようにして持つことが出来るものなのでしょうか?
桑田 僕らの高校時代と比べると、情報が多すぎるというのは、確かに難しいですよね。だからこそ考えて、選択する姿勢が大事ですね。
そのためにも、僕は『誰もが世界で必要な存在だ』という原点に回帰することが大事だと思っているんです。誰もがダルビッシュ投手やイチロー選手のようにプレーしたいと思うでしょうが、人間はそれぞれ生まれ持った体格や能力が違うんです。同じ人間は一人もいない。スタート地点が違うのだから、うまくなるための方法も100人いたら100通りのやり方があるはずなのです。だからこそ、自分の特徴と向き合って、自分に合った練習方法を模索して実行する。よい結果が出たら継続して、失敗したら原因を突き止めて改善すればいいんです。大事なのは、あくまでも自分らしさを見つけることなんだと、皆さんには伝えたいですね。
野球・勉強・遊びのバランスが大事
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――桑田さんは高校時代に、『自分らしさ』を求めながらも、大事にしてきた考え方はありますか?
桑田 僕は、練習・休養・栄養の3つのバランスを大事にしてきました。練習して、栄養を補給して休養をとる。そして万全の状態で次の試合に臨む。野球には走・攻・守というバランスがあるように、上達するためにもバランスが必要です。練習では、時には量をこなしてフォームを覚えることも大事なんですが、たくさん練習しすぎて疲労が残ったり故障しては力を発揮できない。
「すべてが野球につながる意識を持とう」
無駄なことをしても、疲れるだけです。お腹が空くだけです。大事な場面で一球を無駄にしないためには、日頃から集中して、準備、実行、反省する習慣が大切です。
技術、パワー、スピードを求めるだけでなく、自分で考えて工夫して野球に取り組むことで、僕みたいに体格に恵まれなくても、エースになることも出来るんですよね。
――『バランス』。これは、今の学生スポーツにおいても大切なワードですね。
桑田 そうですね。学生なので、野球・勉強・遊びのバランスが大事だと思うんです。
勉強からは、野球で勝つための分析力や洞察力を養うことができるんです。友達と遊ぶことによって、思いやる心を学べます。一見、別のことをしているようでいて、実はすべてが野球につながっていくんですよね。
グラウンドにいる時だけが野球の練習じゃない。学校でも勉強から学び、プライベートでも遊びから学べることがある。僕がバランスを大事にするのはこうした理由があるからです。
――野球以外でも、色々なことに積極的に取り組むことが大切なんですね。
桑田 野球選手はユニフォームを着て、グラウンドにいる時だけ気合を入れていることが多いんですけど、それではよい結果は生まれません。練習後は栄養を摂り、夜更かしをしないでしっかり睡眠をとるからこそベストコンディションで試合に臨めます。学校の勉強でも小さな自信を積み重ねたり、たくさんの友達が試合の応援に来てくれるからこそ、よいプレーが生まれる。すべて野球につながっているんです。
僕は、中学、高校時代に授業中一度も寝たことがないんです。チームメイトはみんな驚いていましたね。成績もトップクラスでやってきて、『何であんなに野球の練習をやっているのに桑田は寝ないんだ?』と周りが不思議がるんです。
でも僕は、学生時代にそういった高い意識で一日一日を過ごしたことが、めぐりめぐって甲子園の優勝につながったのだと思っています。
桑田真澄さん、ありがとうございました。まずは考えること、身の回りで疑問に感じることから目を逸らさないこと。自分の気持ちと向き合うこと。そこから全ては始まっていくのですね。
ぜひ、みなさんもバランスの良い選手や人になるために、桑田さんの言葉を参考にしてみてください。