福井商vs聖光学院
くせのあるピッチングで翻弄した両投手
福井商は1回戦の帯広大谷戦で好投した背番号1の中村文英が登板せず、先発したのは背番号10の長谷川凌汰(3年・右投左打・188/84)。福井大会に登板したのは1試合・1イニングだけで、福井商の絶対エースはやはり中村ということだろう。
長谷川は試合経験は少なかったものの、ピッチングだけは繊細だった。スライダー、カーブに130キロ台中盤のストレートを交えた緩急と、内外の出し入れで勝負するタイプで、これが見事にはまった。被安打6、与四球2でわかるようにコントロールが安定していたことが1失点完投勝利の大きな理由だ。
聖光学院の石井 成(背番号10)も危なっかしかった。始動のときリズムをつけて飛び跳ねるような動きをするので投球フォームに上下動が伴い、ストレートだけでなく、変化球も抜け気味だった。打者としては5回に1死一塁の場面でバントを敢行するが、これが投手正面に転がり、1-6-3のダブルプレーを喫する。その際、一塁まで緊張感のない走りをして、相手ディフェンス陣を助けたのは大きな減点材料である。
しかし、ピッチングだけに限ると、経験値の少ない2人がひとくせもふたくせもある福井商、聖光学院両校の打線を見事に抑えたと言える。石井のピッチングに言葉を加えると、ボールは確かに抜けたが、これを福井商打線がよく振ってくれた。たとえば、3回の一死二塁のときの関了摩(三塁手)、二死二、三塁のときの安田敦貴(右翼手)は抜けたストレートを振って空振りの三振、投手ゴロに倒れている。安田などはよけたバットにボールが当って投手ゴロになった。
試合は1回から福井商が押していた。1回裏は死球で出塁した1番山本琢真(中堅手)をバントで送ったのち、4番大石樹(左翼手)の中前打で先制と効率がいい。2回から6回もヒットは続き、2回は一死二塁、3回は二死二、三塁、4回は二死二塁、5回は二死三塁と得点圏に走者を進め、押しまくる。それを凌いだ石井は1回戦の経験が生きたのだろう。
愛工大名電戦を振り返ると、1回に2ランホームランで先制され、それ以降も3、4、6回と愛工大名電のお家芸・バントを絡めて得点圏に走者を進められるが、1回の2点以外は6回の1失点と、波状攻撃に見事に耐えた。ただ、愛工大名電戦では打線が7回に2点取ったが、この福井商戦ではなかなか火を噴かない。6回に主砲・園部聡(3年・一塁手・右投右打・184/87)が三塁打を放って1対2と1点差に詰め寄るが、得点圏に走者が進んだのはこのときの二死三塁以外では3回と9回の2度きり。
4回は二死から5番横水風寅(左翼手)がヒットで出塁し、続く愛工大名電戦の殊勲者・酒谷遼(右翼手)の右前打で三進を狙うが、外野からの好返球で憤死してしまう。8回は先頭打者の9番石井が左前打で出塁するが後続がヒットエンドランのサインに応えられない。ここは聖光学院打線を攻めるより、13個のフライアウトを量産した長谷川の緻密なコントロールを讃えるべきだろう。
聖光学院の主砲・園部に話を移そう。3打数1安打1打点は物足りなくもあるが、よくやったと思う。6回のタイムリー三塁打は外角への136キロストレートに軽く合わせた打球だが、合わせたあとのひと押しが加わって打球がぐんぐん伸びた。3回戦以降も見たかった選手だけに、ここで雄姿が見られなくなるのは非常に残念。その分、福井商に頑張ってもらいたい。
(文=小関順二)