高校野球研究会 「取材現場から見た高校野球」
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高校野球専門誌『報知高校野球』元編集長 今村成一氏
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毎年、12月の第二日曜日(以前は土曜日)を目処として開催されている、東京都の都立高校の高校野球指導者を中心とした勉強会である高校野球研究会。今年も8日に神宮球場の向かいにある都立青山高校で開催された。今回の講師は、高校野球専門誌の『報知高校野球』の元編集長で、高校野球の取材現場で40年以上も活動をしてきたベテラン記者の今村成一氏で、「取材現場から見た高校野球」というテーマで小山台の田久保裕之コーチの司会進行で行われた。
取材する側とされる側の一期一会
今村氏は最初、報知新聞社の芸能面担当記者として入社した。それが、江川卓氏が作新学院で活躍した頃に運動一部に異動。当初は、ほとんど野球を知らなかったというが、その運動一部でアマチュア野球担当となったのが、高校野球との最初の関わりだったという。その後、江川氏の大学進学に伴って、いわば江川番のような形で張り付いていた。当時、報知新聞社から『大学野球』という雑誌が刊行され、それに関わるようになった。
やがて、1978(昭和53)年に『報知高校野球』が刊行されることになるのだが、その創刊号から参加することになったのである。
それ以来、高校野球の世界にどっぷりと浸りきることになっていくのだが、高校野球の取材ではまず監督との接触、それがすべてという考え方でやってきた。そこには、「取材する側とされる側の一期一会」があったという。その心がけと、思いを熱く語った。
「監督が取材記者を知る必要はないけれども、記者は監督を知らなくてはいけない。監督にそっぽを向かれたらすべてがおしまいですから…。だから、この監督はどういう男なのかな、そういうことを知っていかないといけないんです。1時間話を聞いて、使えるのは、ほんの何行分かくらいしかないかもしれないけれど、そこに哲学というほどはオーバーじゃないかもしれないけれども、その人の考え方を大事にしていかないといけません」
これが、今村氏の取材哲学である。つまり、原稿に反映されるのかどうかとは別に存在してるモノがあって、それをどう伝えていくのかということである。
「形にこだわりながらも、実は形がないのが野球」
もっとも、酒好きの今村氏である。話が進んでいくと、取材しながら、さまざまな監督たちと杯を傾けた話が多くなってきた。しかし、そうした中からこそ、その人の考え方やこだわり、そして人生観なども垣間見ることができるのである。
そんな中で、監督と話した言葉で印象に残った「飲水思源」「雪中送炭」という四字熟語の話にまで至った。ちなみに、飲水思源とは「水を飲むときにはその井戸を掘った人のことを忘れないようにしなさい」という意味で、感謝の気持ちを大事にするということ。また、雪中送炭とは、「寒い時には炭を送ってくれたら嬉しいけれども、温かい時にはそんなもの送ってもらっても嬉しくもなんともない。だけど、辛い時に施してくれた人のことを忘れてはいけない」という意味だということだ。
そんな話を語るのは、やはり記者として言葉を大事にして、どの言葉をどう使っていくのがいいのかということを、いつも意識してきたからであろう。
そして、さまざまな監督との交友録から、現代の高校野球で指導者たちが悩んでいることの一つでもある、メールでの報告などについても自論を展開した。そして、「形にこだわりながらも、実は形がないのが野球」という独自の野球観を述べた。1時間の予定時間の中で、まさに盛りだくさんのエピソードを史溶解していって、さすがにその道40年のベテラン記者であった。
今村氏は、この高校野球研究会に、スタート当初から顔を出していたということもあって、最後は会の創設当初の思い出話などにも触れていた。
講演終了後は、業務連絡とともに、会の発足者の一人である長嶺功元世田谷工監督から、体調を悪くしていた発起人の樋口秀司先生の状況が回復しているという報告と、先の台風で大きな被害を受けた大島高校野球部へ募金呼びかけも行われた。
その後は、今村氏も参加して懇親会が行われた。
(文・手束仁)
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