東北楽天ゴールデンイーグルス 松井 稼頭央選手 「高校時代に学んだ自主トレーニングの組み立て方」
1994年、西武ライオンズ入団後すぐに投手から内野手へと転向。たゆまぬ努力で3年目に遊撃手のレギュラーをつかむと、2004年からMLB3球団を渡り歩いた7年間でも日本人3位となる615安打を記録。
2011年から所属する東北楽天ゴールデンイーグルスでも、2013年の日本一に大きく貢献した松井 稼頭央選手。
そのベースとなっているのは、名門・PL学園で培った自主練習である。
では松井選手は高校時代、どんな取り組みを行っていたのか?これまで数多くのプロ野球選手を輩出したPL学園の自主練習スタイルも含め語って頂きました!
【松井 稼頭央選手の2013年インタビューはこちら!】
第136回 東北楽天ゴールデンイーグルス 松井稼頭央選手
「人の練習を見て盗む」PL流を学んだ高校時代
――まず松井選手の高校時代は、どのような自主練習をしていたのですか?過去にPL学園出身の選手に話を聞いたところ、朝4時に起きて、練習をする話を聞いたのですが……。
松井 稼頭央選手(東北楽天ゴールデンイーグルス)
松井 僕らの時代は朝練もバリバリ練習するわけではなく、体操など軽い練習をしていました。
当時の中村 順司監督(現:名古屋商科大学監督)の方針は「朝ごはんを美味しく食べよう」でしたから、少し動いて、朝ごはんを美味しく食べ、きちんとした生活習慣を身に付けるのが目的だったと思います。6時起床で、10分後には軽いウォーキングをやって、朝食に入るという流れでした。
――ちなみに、中村監督からは他にどんな教えを受けましたか?
松井 中村監督は「野球人である前に一人の人間であれ」といつもおっしゃっていました。とても挨拶に厳しい方でした。寮でも上下関係があり、あとは団体生活のルールも厳しかったです。ひとつの屋根の下で生活していくと、本当の顔が見えてきます。
だからこそ、お互い助け合うなど、縦同学年の横のつながりも共同生活では大切にしていかないといけないことを学びました。
――全体練習やその後の自主練習はどうでしたか?
松井 当時の全体練習は15時ぐらいに始まります。全体練習のとき、技術的な部分と体の使い方は、中村監督やコーチの方からとても分かりやすく教えていただきました。19時で全体練習が終わると、そこから自主練習に入ります。僕は投手でしたからシャドーピッチングやランニング、ウエイトトレーニングを中心にこなしていました。
――自主練習のメニューは自分自身で決めていましたか?また、どう組み立てていましたか?
松井 自分で決めていました。自分でやりたいメニューをリストアップして、こなしました。比較的、他の選手と比べてウエイトが多かったと思いますね。組み立てについてはそこまで深く考えていなかったと思います。ウエイトは2日に1回のペースでやっていました。
あと、シャドーピッチングはしっかりやりましたよ。グラウンド近くの建物の入口にガラス戸があって、登板した後もシャドーは必ずやっていました。
――PL学園における自主練習の特徴はありますか?
松井 PL学園の自主練習は先輩と付き合ってすることが多かったですね。例えば先輩のティーに付き合ったときに、トスをしながら、先輩の打撃を見て、学ぶんです。
自主練だと、懇切丁寧に教えるわけではありません。「見て盗む」。それが基本です。自分が上級生になっても、それは変わりませんでした。
――振り返ると、周りの仲間、野手でもいいのですが、成長している選手はこういう意識で臨んでいたというのはありますか?
松井 みんな「うまくなりたい、負けたくない」と思ってやっていましたね。僕らの学年は部員数が15人~20人とそれほど多くなかったので、まとまりもあったと思うし「このチームで甲子園行きたい!」という思いでやっていました。
しかも、僕らの代はボーイズ、シニアのエースや主砲ばかりでしたし、投手は8人もいたんです。しかもみんな結果を残している選手ばかりでしたので、ますます「負けたくない、エースになりたい」という思いが強かったです。こうして仲間と競争をしていくうちに、ライバルだけれど、友情も深まっていきました。
――今のようにインターネットがなく、情報が閉ざされた中で、上達の鍵を見つけるのも大変だったと思います。
松井 そうですね、インターネットもないですし、当時のPL学園では1年生はTVも見れないんです。外の世界が全く分からなかった。だから、目の前のお手本である2、3年生の先輩たちの動きを見て盗んだりしていました。
[page_break:プロでも大事な「自主練習」の時間]【松井 稼頭央選手の2013年インタビューはこちら!】
第136回 東北楽天ゴールデンイーグルス 松井稼頭央選手
プロでも大事な「自主練習」の時間
――プロに入ってすぐ野手に転向された松井選手ですが、高校時代とは異なる「自主練習」はありますか。
松井 僕の場合は「壁当て」です。プロ入り当初からずっとやっていました。グラブさばきを柔らかくするために、まずは壁当てなどで様々な転がり方をする打球に慣れて、しっかりと捕球する基本ができてから、次の段階に入っていきました。
今やっている自主練習で言えば、自分が膝をついて手しか動けない状態で10メートルぐらいの距離でノックを打ってもらって、捕っていくことをしています。
そのまま立っていれば、足を使えますが、膝が立った状態だと足が使えないので、グラブさばきでどうボールを捕球していくか、というのが大事になりますからね。
――グラブさばきの次の段階になると思いますが、フットワークに関して松井選手が一歩目のスタートで意識していることがあれば教えてください。
松井 ショートの話で言えば、全体が見えるので投手が投げる軌道、振るタイミングに合わせて、スタートを切る準備をしています。ボールがバットに当たるところだけ見ていたら、身体が固まってしまうんですよ。
投手を視野に入れながら、打者を見て、投げるリズム、振るリズムに合わせていく。バットに当たるところを見るのも大切なんですけど、全体を見てタイミングを合わせていくことが大事ですね。
――打撃の話もお願いします。遠くへ飛ばすために、強い打球を打つために取り組んでいるポイントがあれば教えてください。
松井 稼頭央選手(東北楽天ゴールデンイーグルス)
松井 「最後までしっかりと振り切る」ことです。高校野球でよくあるのは、クリーンナップの選手は最後までしっかりと振りきってから走っていますが、1、2番の選手はしっかりと振りきる前に走っているんです。打った瞬間で走りたくなるのは分かるんですけど、それでは力強い打球は打てないですよね。まず打席の中で、しっかりと振りきってから走る。力強い打球を打ちたいなら打席内でしっかりと振る。
実際、僕もそうだったんです。1994年・西武ライオンズの入団1年目で自分がスイッチヒッターをやり始めた時も、左打席では「当てて当てて」の打撃が多く、弱い打球ばかり。これじゃ面白くないと思ったんですよね。そこで打席内でしっかりと振るようにしたら、二塁打、三塁打が多くなってきて、そして本塁打も打ちたいと思うようになりました。
――その他に技術的なことで何か意識していることはありますか?
松井 自分がこだわっていることは「タイミング」ですね。試合に入って、打席に入ったところでタイミングを合わすようでは遅い。ベンチ、ネクストから投手の足の上げ下げを見て、どこで合わせるのかを工夫していくことが必要だと思います。
【松井 稼頭央選手の2013年インタビューはこちら!】
第136回 東北楽天ゴールデンイーグルス 松井稼頭央選手
自主練習は「自分のため」
松井 稼頭央選手(東北楽天ゴールデンイーグルス)
――高校時代からプロ入りしてここまで、松井選手にとって「自主練習」はどういう場だと思いますか?
松井 一言で言えば「自分のため」ですね。自分がうまくなりたいと思ったらやりますし、やりたくなかったらやらない。5分でもいいですし、1時間でもいいですけど、やっていないからあかんといったらそうでもないですし、誰もが見ていないところでやりたいと思う選手もいると思います。
ただ、自主練習でうまくなるには、考えてやなければならないと思います。自分でノルマを課さないといけないので。500回振ろうと決めて、300回でしんどいからやめようというわけにはいかない。本来は相当キツイものであるはずです。
ですから、自主練習は集中してやれば、5分、10分でも意味があると思います。それを毎日続けることが大事。少なくてもいいので継続をすることが成長のきっかけなんです。
――自主練習のメニューを考えるポイントは?
松井 大切なのは、先ほど言ったように「習慣」を身につけること。続けるという点から、自主練習にメリハリを付けることが大切ですね。1週間のうち4回はグラブを持った練習、3回はランニングでもいい。時には全体練習前でもいいと思うんですよ。全体練習前に30分あるんだったら、壁当てでもいい。変化をつけながら、継続していってほしいと思います。
――最後に、高校球児たちへのメッセージをお願いします。
松井 思う存分、楽しんでもらいたい。悔しい思いをすることもあるかもしれません。思い切り青春を楽しんでしてほしいですね。
自分は最後の夏、大阪大会の決勝で負けました(近大付属に3対6、相手のエースは金城 龍彦<現巨人>)。今でも悔しい部分はありますけど、良い思い出でもあります。厳しい練習もあると思いますが、それも青春と思ってやっていけば、満足できると思います。
自分も高校球児の姿を見ると熱くなるので、本当に楽しみにしています。この年で、こうやって高校球児のためにお話する機会はなかったですし、まだ憧れを持っていただけることを誇りにして、長く活躍出来るように頑張っていきたいと思います。
松井 稼頭央選手、ありがとうございました。「甲子園に行きたい、ライバルに負けたくない」という思いをきっかけに今に至るまで自主練習を継続してきたのですね。
今シーズンは残り80本と迫った日本での「2000本安打」や、外野手に挑む松井選手の、さらなる活躍を期待しております!!
(インタビュー・河嶋 宗一)