決断できる選手
高校野球を見ていて、活躍できる選手は「決断上手」と感じます。試合の中で選手が決断することはたくさんあります。
投手が捕手のサインに頷いた瞬間、決断したことになります。打者も打席内で「これを打つ」と球種を選択するときもあるでしょう。走塁で走ってもいいというサインのときに「行く」と決めることもそうです。
「決める」という行為
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【写真:試合記事 平成27年度春季奈良県大会 準々決勝 橿原学院vs奈良女子大附より】
決めるという行為は野球の試合で何度もしています。何度もする決断ですが、大抵の選手は決断が、曖昧で決めきっていない状態でプレーしています。
捕手のサインを受けて、「うーん・・」「それでいいかな」という緩い決断で投げる・・これでは球に魂が入りません。選択があっているかどうかではなく、「これ!」と決断して投手は投げたいものです。
投手がサイン交換を終え、セットポジションに入ってからプレートを外す動きをする投手がいます。「何か嫌な予感・・」というときに外したり、特種球を投げる際、セットの入り方が不自然だったときに外すときもあります。そういったレアなケースではなく、決断が緩い投手に限ってプレートを外す傾向があります。こういった投手は緩い決断で投げていることが多いので、マイナスの状況になれば容易に流されていきます。
打者が結果を出せない元凶は、「打席内の迷い」が一番です。何となく投げてきた球を打つという感覚では、好投手の球は打ちあぐねるでしょう。好投手との対戦になれば「この球」「このコース」と決めなければ思い切りも出ません。
無心で打つとか、投げてきた球を反応で打ち返すというやり方では、一線級の投手を打ち返すのは難しいのです。インコースなのか、アウトコースなのか、ストレートなのか変化球なのか・・迷えば迷うほど自分の身体は動かなくなります。
盗塁も同じです。今風の盗塁は、監督が「この球で走れ」ではなく選手が投手との間合いを計りながら「行けるときにいく」というやり方をしています。
行けるときに「でも牽制が来たらどうしよう」「捕手の肩もいいし」「クイックされたら厳しいかも」、盗塁はスタートが命ですが決断できない選手はうまくいかないものです。
決断できない理由
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【写真:試合記事 平成27年度春季近畿地区高校野球大阪府予選 5回戦 四條畷vs近大附より】
決断は思い切りであり、ある意味「開き直り」かもしれません。何かをするときには必ずリスクはあり、100%保証されている動きはありません。決断の裏側に「でも」は潜むのですが、一世一代の勝負のときに決断できない選手は活躍できません。
決めることは簡単なようで、試合の中で難しいと選手は思っていることでしょう。
なぜ決められないのか・・
結果思考で「でも」の次に結果を考えるからです。プラスの結果をイメージすることは大切なことですが、結果を意識するときにマイナスのことを大抵の選手は描きます。
今まで練習や試合の中で「これをする」という行動思考の選手は決めるのが上手です。結果は二の次で「これ」と簡単に決断していきます。勝負の世界、相手も必死で戦っています。失敗を恐れる心が勝れば、決断も鈍ります。
指導者としては決断できる環境を作り出すことです。失敗をして「何をやっている!」と結果に対して叱責すれば、選手は「失敗できない」と結果思考になります。行動評価する指導者は全国でもひと握りしかいません。
選手が環境を嘆いていても仕方がないので、選手としては結果思考になることなく「これ」という行動に意識を集中することが重要です。そうすれば、決断できる選手になっていくことでしょう。
決断したものの確率が低い状態では、成果をあげることは難しくなります。
私のチーム指導では、「うまくいく条件を整えて決断する」ということを伝えます。投手のサイン交換であれば、打者の仕草や傾向、そのときの状況を考えベストな選択を導き出します。
自分が投げたい球・・では、条件を整えるということにはなりません。自分の調子と相手打者を観察しながら「これ」を決めなければいけないのです。
決めてなおかつ成果の出せる選手になるためには、自分だけじゃなく相手目線で物事を考え冷静に決断したいものです。
小さなことでも「決める」という感覚を
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【写真:試合記事 平成27年度春季近畿地区高校野球大阪府予選 5回戦 四條畷vs近大附より】
私も社会人野球現役時代、捕手としてプレーしましたがサインを出すときに「何となく」なんてことはたくさんありました。9回で135捕球するとして、すべての球を打たれる打たれないは別として「これだ」と決めきってサインを出せば、もう少し失点は抑えられたと思います。
迷ってサインを出したときになぜか打たれる・・野球は不思議なスポーツです。決断をしてマイナスの結果が出ても「仕方がない」と心の切り換えは容易ですが、迷って失敗したときには後悔で心の中が一杯になります。
「ああしておけばよかった・・」「こうしておけば・・」
決めてプレーすることの重要性は、ここまで読むと氣づいてくれていることでしょう。大事なのは、野球だけじゃなく普段から「決められる人」になることです。
周囲に流されて自分の意志を持てない人も多くいますが、結果を別として何事も「決断する」ということを意識すると、徐々に自分が変化していきます。
私が選手に伝えていることは、「当たり前の実践」を大切にする。それが野球へ直接的に影響を与えていきます。道具を整えることや整理整頓も、野球のときだけじゃなく野球以外の学校や自宅でも意識するように伝えています。
あるときにはやって、あるときには意識しないでは本当の力はつきません。決断に関しても野球試合だけじゃなく、普段の生活から決める癖を付けることが大切なのです。
小さいことでも、細かいことでも「決める」という感覚を持って取り組むことをおすすめします。
三年生は「夏」で最後を迎えます。悔いの残らない最後の夏にするために、ここまで書いてきた29のコラムを読み直して欲しいと思います。まだ最後の夏までにできることはあるし、成長することはできます。
決断できる野球選手・・
今夏ひとりでも多くの選手が決断しながらプレーすることを願います。
(文=遠藤 友彦)