Column

創価大の投手育成術 vol.2 「好投手のメンタルとは?」

2015.05.12

 良い投手のことを好投手と表現するが、試合に勝つだけでなく、メンタリティ、頭脳面も優れていることが多い。ではいったい、彼らは何を考えて取り組んでいるのか、今年のエース・小松 貴志投手と155キロ右腕・田中 正義投手に話を伺った。

好投手のメンタル

田中正義投手(創価大)

 小川投手の姿を見て意識を高めた小松投手。今度はその姿を見た現3年生の田中 正義投手が引き継ぐ。
「自分の考えでは、全体練習だけでは実力があまり伸びないと考えています。もちろん全体練習は大事だという前提の上で、さらに個人として上達するのに個人練習は不可欠かと」

 個人練習は毎日自分で考える。
「基本はトレーニングです。シーズン中は前回の登板の反省を踏まえつつ。たまにネットスローもします」

 ネットスローとは、前回挙げた3つの基本を再確認するために行っているのだろう。大学から本格的に投手を始めたにも関わらず、2年春にはリーグ防御率1位でベストナインを獲得した逸材。「1年の時は身体を作ることを第一優先にしていました。股関節周りの強化や可動域を広げたことが大きかった」というように創価大のメソッドもピタリとはまった。いまやストレートの最速は155キロまで伸びた。

 小松投手と田中投手は創価高校時代から先輩、後輩の間柄だ。創価大へ先に進学していた小松先輩を見て、田中投手はなにか変化を感じたのか。
「大学に入ってからはピッチングスタイルが変わっていて器用だな、と感じました。自分とは性格もピッチングスタイルも全く違うのですが、小松さんみたいなピッチングをしてみたいな、と。普通、投げて負けたら落ち込むと思うんですけど、いい意味でケロッとしているんです」

 そんな自分は気持ちの切り替えをどう意識しているのか。
「常に悪い想定はしています。試合前に先頭バッターに長打を打たれた所からイメージしてみたり。そうすれば実際そうなってもビックリしない。調子がいいと思って試合には臨まないようにすることで、初回に失点をしたとしても落ち着いて粘り強く投げていけるのではないでしょうか」

 逆に小松投手も、後輩の田中投手が大学進学後に変化したことを感じていた。
「体つきはもちろんなのですが、意識の高さが変わりました。高校の時はのほほんとマイペースでしたけど、今は違うなと。あのすごいストレートに関しては追い越せないなと思います」

 田中投手が尊敬する小松投手の「いい意味で落ち込まない」、そのメンタルに秘訣はあるのか。
「もともと自分は気持ちが揺れ動くタイプでした。でも監督に心の面をすごく説かれまして。心が動揺するとピッチングにも支障をきたす。であれば、私生活から心が動じない自分を持つことを大切にしようと。イラッとすることは野球でも私生活でもありますよね。そういう時は一度深呼吸をして物事を考えて後悔しないように冷静になることに務めています。それを日頃から行っていれば、マウンド上でも同じように深呼吸を一度入れることで冷静になって緊張を解けるようになります」

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夏、勝てる投手になるためのプロセス
[page_break:「陰徳あれば陽報あり」]

「陰徳あれば陽報あり」

八木 智哉はある程度やると思ったけど、大塚 豊は元々ショートをやっていたし、小川 泰弘も甲子園には行ったもののプロに行く程とは思っていなかった。小松 貴志も元はレフトだし、田中 正義も元はセンター。でも、みんな成長した」

と振り返るのは岸 雅司監督。今年で創価大での監督歴は32年になる。

「特に小川はすごかった。野球のこと以外頭にないんじゃないですか。それぐらい野球選手として成長することを追求していました。あの子の趣味は小説を読むことで。今の子はみんなスマホばかりいじっているのにね。一度台湾に行った時、待ち時間が1時間ぐらいあったので自由時間にしたんです。みんな買い物や食事に出かける中、小川だけが待合室で小説を読んでいた。なにかを吸収する――私はそれも才能だと思っていますが――そういう素質を持っていたんでしょうね」

写真7.選手たちがつける野球ノート(創価大)

 話を聞いているのは創価大のワールドグラウンドのバックネット裏。岸監督の視線の先にはアップをする選手たち。そして目の前の机の上にはうず高く積まれた選手たちの日記ノート(写真7)があった。

「これは平成元年からずっと続けていることで。今は部員が83人いるのですが、6班に分けていて、1班ごとに13~14人分の日記を提出してもらっています。それを6日間かけて見て返す。これは根気がいるんですが重要なことで。83人も部員がいるとどうしても会話できない選手が出てくる。すると『オレなんかどうでもいいや』と心が離れていく。でも日記を通してやりとりすることで心の距離を保てる。それと僕も寮に住み込んでコミュニケーションを重ねる。すると気心が知れている仲になれる」

写真8.石拾いに黙々と取り組む選手たち(創価大)

 創価大野球部にはある大きな特徴がある。4年生を中心とした上級生が草むしりなどを率先して行うという伝統だ。野球部の寮「光球寮」にはゴミひとつ落ちていない。ワールドグラウンド周辺も同じ。取材に訪れた際も、練習着姿の選手たちが花を植えたり、土をならしていたりした(写真8)。聞けば寮では朝7時から全員で掃除をしているとか。グラウンド周辺も枝の伐採などは業者が行うものの、草や落ち葉、ゴミ拾いなどは野球部の手作業らしい。

「部員が83人いると、物理的に全員がレギュラーになれることはありえない。ベンチ入りでも25人まで。では、ベンチから漏れた子たちはどうするのか。そこは遊ばさないようになにか役割を持たせないと。だいたい、3年にもなると自分の力が分かってくる。そこが切り替え時で、ベンチに入れない子たちは“スタッフ”と名付けて野球以外の作業に従事してもらう。彼らは自主的に動いてくれる。先輩たちの姿を見ていますから、自分たちももっとやろうと動いてくれるのです」

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夏、勝てる投手になるためのプロセス
[page_break:掃除やゴミ拾いがなぜ野球に通じるのか?]

掃除やゴミ拾いがなぜ野球に通じるのか?

木々の世話もする選手たち(創価大)

 掃除やゴミ拾いをする野球部の話は、高校野球界でもよく聞かれる。だが、それが野球に直接通じるかと問われれば、疑問を持っている高校球児も多いのではないか。その点創価大では明確に「野球につながる」こととしてこれらの作業が行われている。岸 雅司監督が言うように、部員全員の心が野球部から離れない求心力を携えているというのも効果の一つ。

 さらに小松 貴志投手は、
「心が最も鍛えられるという点で野球に通じます。草むしり一つとっても適当にやったら意味がないんです。僕はここで、どんなことにも丁寧にやるということを教えてもらった。小川さんもやっていました。先輩たちがやっているので、入学当初の自分はびっくりしましたね。先輩がやるから後輩もいっしょにやる。スタッフさんがほとんどやってくださるのですが、選手たちで話していっしょにやろうという流れにもなります」

 岸監督の説明を補足として使わせていただく。
「『陰徳あれば陽報あり』という言葉があるのですが、陰の仕事はいつか花開くことがあるというのは、私の教育上、大きなポイントです。それが創価大野球部の実績にもつながっているし、社会に出た教え子たちの活躍にもつながっている。

 結局、心がしっかりしていないと技術も身につかないんです。今の子どもたちはこらえ性がないとよく言われます。技術の修得には粘り、忍耐強さ、根気強さが必須で、技術を発揮するにもしっかりした心がなければ緊張したり舞い上がったりしてしまいます。心次第で技術はプラスにもマイナスにも作用する。心は目に見えないと言いますが、表れてきている部分もあるんです」

 岸監督が大事にする人間力。これこそ創価大野球部の土台になり、強さの秘訣になっている。技術だけではない、強靭な精神を身に付け、芯の強い投手になるために岸 雅司監督、佐藤 康弘コーチ、小松 貴志田中 正義両投手にメッセージをいただいた。

(文・伊藤 亮

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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