実力で周囲を黙らせ、実力で日本代表入りした清宮 幸太郎
騒がれれば騒がれるほど求められるハードルは高い。西東京大会で打率.500を残した清宮 幸太郎に対し、厳しい見方が多かった。その見方に対し、清宮は敏感に感じ取っていたようで、
「期待されているけど、活躍がそれに追いついていない」
と、選手権前から常々語っていた。だが、甲子園を終えて、選手権前の清宮と今の清宮では、比べものにならないぐらい成長した。実戦をこなす中で、徐々に自分の持ち味を出してきたといっていいだろう。
その清宮は28日に開幕する第27回WBSC U-18 ワールドカップの代表選手に選出された。選手権での清宮を振り返りつつ、ワールドカップに向けての清宮の注目ポイントを語っていきたい。
勝ち進むごとに凄味が増した清宮 幸太郎
清宮 幸太郎(早稲田実業)
清宮は1回戦の今治西戦、第4打席で痛烈な右前適時打を放った。この日はこの安打だけで終わったので、長打性の打球が少なく、評判の選手なのか?と思った人もいたはず。凡退した打席を見ても、ボール球に手を出し、スイングも遠回りした状態で、3回戦以降で見せたコンパクト且つ鋭くバットが回った状態ではなかった。
今振り返ると、あまりのプレッシャーからスイングの形をやや崩していたことが考えられる。安定した自分のフォームを貫くのは難しい。
だが2回戦の広島新庄戦では甲子園の雰囲気に慣れたのか、変化した姿を見せてくれた。
少し間合いを持たせてじっくりとボールを待つことができていたのだ。第2打席では広島新庄の堀 瑞輝のスライダーを、突っ込まずに溜めて器用に右前適時打を放った。左投手が左打者にスライダーを投げる意図は、引っかけさせて内野ゴロを打たせることにある。だが清宮は体勢を崩さずに右前安打を打ったのだ。まさに非凡のバットコントロールである。
さらに第3打席でも左前安打。第5打席では鋭い投手ライナーと、だんだん状態が上がっていた。もし広島新庄戦で終わっていたら、今ほど熱狂されることがなかったかもしれない。逆転されつつも追いついて、勝ち越した広島新庄戦では清宮を語る上で大きなターニングポイントとなった。
迎えた3回戦の東海大甲府戦。第2打席だった。東海大甲府の先発・菊地 大輝のチェンジアップを見事に捉え、ライトスタンドへ飛び込む甲子園初本塁打。この打席の本塁打を振り返ると、足を上げてから両腕を引いて、インパクトを捉えるまでの動きに全く無駄がなく、さらに打球の角度もついた形となった。
さらに第4打席では、二死満塁の場面で打席が回ってきた清宮は低めに入るチェンジアップを払うような形で振り抜き、ライト越えの走者一掃の二塁打で5打点目、さらに第5打席は、低めのストレートを思い切り引っ張り二塁打。4打数3安打5打点の活躍で、いよいよ本領を発揮し始めた。
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準々決勝の九州国際大附戦では、第1打席は投手ゴロに終わったが続く第2打席、インコースの直球を待っていたかのように振り抜くと打球はライトスタンドへ消えた。これが夏の甲子園2本目となり、1年夏で2本打ったのは桑田 真澄氏(元パイレーツ)(2013年インタビュー)以来の記録となった。この本塁打の内容も素晴らしかった。両腕を引いたときにグリップが体の奥に入りすぎず、左ひじを畳んで、無駄のないスイング軌道でボールを捉えることができていた。
さらに第4打席では外角直球を引っ張り、あわやホームランという当たりとなるレフトフェンス直撃の二塁打。4打数2安打1打点の活躍で、打点8となり、桑田氏の1年夏の記録に並んだのである。
それにしても、投手なのに1年夏に8打点を記録した桑田氏は改めて凄いと感じる。
そしてさらなる爆発が期待された準決勝だが、仙台育英のエース・佐藤 世那の前に1安打のみで終わった。
とはいえ、清宮が残した打撃成績はとても1年生とは思えない。
19打数9安打、2本塁打8打点、打率.473
この成績を見れば活躍が期待に追いついたといえるだろう。清宮に対し否定的な見方をしていた人達を実力で認めさせ、見方を一気に変えさせたことだろう。
今後、どんな伝説を残してくれるのか、そんな期待が高まる1年夏の甲子園であった。
U-18を大きな糧とすることができるか?
清宮 幸太郎(早稲田実業)
そして清宮 幸太郎は28日に開幕するU-18ワールドカップの代表選手に選出された。清宮は7月から候補に挙がる話は出ていたが、まさか1年生が選ばれるとはこの時、誰も思わなかっただろう。しかし甲子園での実績、そして今年の世代の一塁手は岡本 和真(智辯学園)(2014年インタビュー【1】 【2】)のような大型スラッガーがいるわけではない。一塁手は長打を打てる打者が求められるポジションである。清宮が残した実績、打撃の技術、スケールの大きさは今年の3年生と比較してもトップレベルの選手であり、選出にはふさわしい選手であることは間違いない。
U-18大会は木製バットを使う。今年中に木製バットを使う清宮を見られるので、木製バットの順応性をチェックするにはもってこいだ。2年後、プロ志望すれば、間違いなくドラフトの目玉になる男だけにNPBのスカウトは目を光らせて見ることだろう。
清宮の打撃を見ると、早い段階で順応する可能性は十分にある。理由として清宮の打撃フォームには余計な癖がなく、インパクトまで無駄のない、完成度が高いスイングができていることが挙げられる。そして広角に打ち分けるために、左ひじの向きを変えて、引っ張るか、逆方向に打ち返すか、その打ち分けが高校1年生にしてできている。
今までU-18代表に選ばれた選手の打撃を見ていくと、清宮と同じくバットが遠回りせずにボールを捉えることができており、うまくバットを使いこなしている。清宮の打撃を見る限り、器用な打撃ができる選手といえるだろう。今の精神状態ならば、U-18に入っても清宮らしい快音を響かせるのではないだろうか。
U-18入りすることは、選手たちに大きな経験になる。まだ1年生の清宮が木製バットを使っての実戦経験を積むことができるのは、かなりプラスに働く予感がする。
今回の代表選出は自分の実力でつかみ取ったものである。このような経験はなかなかできるものはない。多くのモノを得て、清原 和博、松井 秀喜越えを現実のものとしてほしい。
(文=河嶋 宗一)
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