北海道札幌清田高等学校(北海道)【前編】
今年10月の秋季全道大会で札幌清田が4強入りした。24年ぶりの秋全道出場を決めると、逆転勝ちの連続で旋風を巻き起こした。練習環境に恵まれているわけではない公立校の快進撃を支えたものは何だったのか。その秘密を探るため、学校を訪ねた。
運命を変えたゲッツー
第68回秋季北海道高校野球大会準決勝 vs北海道栄より
この秋「札幌清田」の文字が連日、地元新聞の見出しを飾った。足を絡めた攻撃と守りを武器に、7試合中5試合で逆転勝ち。甲子園出場経験のある私立強豪校と肩を並べて堂々の4強入りを果たした。学校創立40周年という節目の年、18年間全道大会から遠ざかっていた公立校が一躍21世紀枠の候補校と目されるまでの注目校になった。
新チームのスタートは、順調とは言えなかった。札幌市立の学校が集まった対抗戦では、札幌旭丘に3対10で7回コールド負けを喫した。練習試合も22勝16敗1分と勝ったり負けたり。だが、公式戦で起こった一つのプレーがチームに劇的な変化をもたらした。
札幌支部予選初戦の北広島戦でのこと。この試合初回に1点を先制され、さらに二回には無死満塁のピンチを迎えていた。ここで相手打者が放った痛烈なライナーを主将の山田 竜平遊撃手(2年)がジャンプ一番好捕。飛び出していた走者を見逃さず、冷静に三塁に送球して併殺を奪った。直後に実松 雄貴投手(2年)が二塁けん制を決めて、この回無失点。流れは一気に札幌清田へ傾き、逆転勝利につながった。
「負けてもおかしくない試合でした。あそこで打球が10センチずれていれば、全道大会はなかったでしょう」
とこの秋から指揮を執る宮田 敏夫監督(51)は振り返る。絶体絶命の場面を切り抜けた選手たちは、勢いに乗った。2回戦では優勝候補の東海大四を破った札幌啓成、準決勝では札幌龍谷と対戦していずれも先制点を失ったが、慌てずに連続逆転勝ちした。
「試合前に選手同士で最悪の想定を話し合うんです。だから、先制されても予想通り。ビッグイニングさえ作らなければ、まだまだ大丈夫という雰囲気がありました」
と山田主将。代表決定戦では、とわの森三愛を7回コールドで下し、秋は24年ぶり、3季通じても97年夏以来18年ぶりとなる全道切符を手に入れた。
全道大会でも浮き足立つことなく、白星を積み重ねた。初戦の札幌光星戦で秋の全道初勝利を挙げると、3回戦も函館工に逆転勝ち。2点を先制した準決勝の北海道栄戦では3回に5点を失って2対7で敗れたものの、あと2勝で甲子園切符に手が届いた。
それでも選手たちに快進撃の余韻はない。
「その2勝が本当に難しいのかなと思います。この秋明らかになった差を埋められるように全員でレベルアップしたい」
と山田主将は表情を引き締める。支部予選から全7試合774球をすべて一人で投げ抜いた実松も「甲子園が近いという感覚は全くない。自分たちが強いと思ったことはないです」と笑う。
部員34人のほとんどが自転車か徒歩通学。地元の生徒が集まったメンバーは、21世紀枠の候補校になるかもしれないという噂にも惑わされることはない。周囲に流されない強さは、新チーム発足時からあった。毎年、新チーム結成時に選手が話し合って決めるチーム目標。前チームの目標は「全道4強」だったが、このチームは「全道出場」と現実的な目標を選んだ。
宮田監督は「自分たちの力がわかっていて、高すぎる目標設定をしない。欲がないけれど、地に足がついている。このチームは面白いと思いました」と話す。最初に臨んだ秋の大会で目標をあっさりクリアすると、次は「全道1勝」と上方修正も控えめ。浮ついて大きなことを言うどころか、目の前の試合に集中し、1戦必勝で戦った結果が全道4強だった。
宮田監督が新チームに期待をかけた理由
札幌清田高赴任3年目、今秋から指揮を執る宮田 敏夫監督(北海道札幌清田高等学校)
選手たちが自ら決めた堅実な目標設定の他に、宮田監督が新チームに期待をかけた理由が2つある。運動能力が高い選手が多かったことと、センターラインの3人が残っていたことだ。
体育の授業中に行った運動能力テストの総合順位では野球部員が上位を占めていた。「これまで何チームか見てきた中でも潜在能力は高いと直感しました」と宮田監督。また、山田主将と渡部 桂輔捕手(2年)、佐藤 倫中堅手(2年)は、前チームでも主力選手。中でも1年春から公式戦に出場してきた山田と渡部はクリーンアップに座り、攻守でチームを引っ張った。
山田は、前述した札幌支部予選初戦の北広島戦で絶対絶命のピンチを切り抜ける併殺を決めた遊撃手だ。1年春から場数を踏んだ経験によって、優れたポジショニングや鋭い観察眼が身についた。一方、「4番・捕手」の渡部は、全道大会3回戦の函館工戦、無死一塁の場面で2度ピックオフを成功させた。
「“あるぞ”と見せるだけでもいいと思ったのですが、決まりましたね。うちは守備からリズムを作ることを意識しているので良かったです」
新チームではまだ練習していないプレーだったが、豊富な試合経験に基づく状況判断が冴えた。
何度も試合の流れを大きく変えた守備力は、新チーム発足からテーマに掲げた重点項目だった。内野手は1日100本、外野手は1日50本ボールを受けることをノルマにした。全体練習が終わった後も居残りの課題練習でノックが続き、練習時間の半分以上を守備に費やした。「守りをしっかりしないと勝てない。バッティングはすぐには上達しないので、コツコツやっていきますが、守備はやればやるほど伸びますから」と山田は話す。
前編では全道大会の戦いぶりを振り返りました。後編では今年のチームの原点を探っていきます。
(取材・文=石川 加奈子)