東北楽天ゴールデンイーグルス 藤田 一也選手(鳴門第一出身)「守備の名手・藤田 一也が伝授する9つの『藤田式メソッド』」【前編】
昨年、二塁手部門で3度目のゴールデングラブ賞に輝いた藤田 一也選手。プレーが多岐に渡る二塁手での通算守備率は.993を誇る。堅実かつ華麗な守備力は誰もが認めるところだ。藤田選手にはこれまで4度登場いただき、守備の基本や応用、あるいはグラブのこだわりなどについてお聞きしましたが、今回は守備で大事にしていることや、ふだん実践していることなどをたっぷりうかがいました。内野手なら今日からでも取り入れたい9つの「藤田式メソッド」を紹介します。
高い守備力は「カベ当て」と軟式野球がベース
藤田 一也選手(東北楽天ゴールデンイーグルス)
最近の球児はピンとこないかもしれないが、昔の野球少年はたいてい、楽しみながら「カベ当て」をしていた。カベに向かってボールを投げ、跳ね返って来るボールを捕球する。単純な“遊び”ではあったが、これを繰り返すことで、自然にゴロ捕球や送球の技術が磨かれた。昭和の時代に少年期を過ごした元プロの選手の中には「守備のベースは「カベ当て」で作られた」と話す人が少なくない。
時代や環境の変化で、今では「カベ当て」をする野球少年がめっきり減ったが、「僕の守備の原点は『カベ当て』です」と言うのが、東北楽天の藤田 一也選手だ。昨年、3度目のゴールデングラブ賞を獲得した。
「野球を始めた小学生の時に、父親が庭に畳一畳ほどの鉄板を設置してくれましてね。コンクリートより跳ね返りがいいその鉄板相手に、毎日『カベ当て』をしていました」
そこには“藤田少年流”の工夫も。ただ同じところから正面に投げるのではなく、投げる距離を変えたり、当てるところを変えた。
「たとえば近くからぶつければ、ノーバウンドの捕球練習ができますし、少し左にぶつければ、逆シングルで捕球する練習ができます。『カベ当て』をすることで、様々なバウンドへの対応力が身に付きましたし、横から投げたり上から投げたりすることで、いろいろな投げ方ができるようになりました」
「カベ当て」をする時はテレビで見た「好プレー集」の映像をイメージした。当時の憧れは巨人の川相 昌弘選手(現・巨人三軍監督)。ゴールデングラブ賞6度受賞の川相選手をはじめ、プロのスーパープレーを真似することも上達に一役買ったようだ。
ちなみに鉄板の中央には「的」が記されていた。どの角度からも「的」に当たるよう練習したところ、コントロールも培われたという。藤田選手の守備力の基盤を作ってくれたもう1つが軟式野球だ。藤田選手は中学まで軟式でプレーした。
「中学に入る時にシニアかボーイズという選択肢もあったんです。ですが父親から『お前は体があまり大きくないから軟式の方がいい』と言われましてね。結果的に軟式を選んで良かったと思っています。軟式の場合、多彩なバウンドに対応しなければならないので、それで鍛えられたのです。高校(鳴門第一高。現校名:鳴門渦潮高)で初めて硬式を握った時、軟式よりバウンドが一定だったので、捕りやすいやん、と思いましたからね」
名二塁手の高い守備力を裏打ちしているものとは
さて、名手・藤田選手は日頃どのような意識で、そして何を大切にして守備に取り組んでいるのだろう。「藤田式メソッド」を球児のために伝授してもらった。ただし藤田選手はこう強調する。
「必ずしも誰にでも当てはまるわけではありません。この中でいいと思ったことを、試してみて自分に合っていると思ったものを取り入れてください」
●藤田式メソッド その1
体の正面で捕る時は「肩」「腰」「ヒザ」のラインが水平になるようにする。
「体の正面で捕る時は左足を前に出すのが基本だとされています。しかしこの意識が先に立つと、体は斜めになり、打球に対して正面に入れなくなります。ではどうするか?僕の場合、『肩』『腰』『ヒザ』のラインが水平になるよう、左足を真横に出すようにしています。そうすると真横に出したつもりでも、自然に半足か1足分、左足が前に出て、結果的に基本姿勢になるのです。また僕は、体の『前』で捕球しようとすると頭が突っ込む、と考えているので、急所の真下で捕るようにしています。こうすると次の動作に入りやすいですし、何より体がスムーズに動くのです。緩いゴロを転がしてもらって基本動作を確認する際は、この2つのポイントを意識しています」
●藤田式メソッド その2
グラブに入れた手の力を抜くとハンドリングがしやすい。
藤田選手のグラブには薬指を通す特別仕様のパーツがある
「僕はグラブに深く手を入れません。いつもグラブが落ちるくらい、グラブと手の平が浮いている感じです。なぜなら、グラブに深く手を入れると手に力が入り、そうなると腕(肘)にも力が入ってしまうからです。ハンドリングのポイントは、肘と手首をいかに使うか。肘の力が抜けていれば、肘を動かすだけで手首は勝手に動くので、捕球の時に楽にハンドリングができるのです。
もっとも、はめているグラブが落ちてしまってはまずいので、僕は特別に薬指を通すパーツを付けています。グラブに軽く手を入れるメリットとして、捕球した時にいい音が出る、というのもあります。グラブとの隙間があった方がいい音が出ることに気が付いたのは、プロに入ってからですが」
●藤田式メソッド その3
ボールに一点集中し過ぎないことが体の力を抜くコツ
「体に力が入っているとうまくハンドリングができないですし、ミスもしやすい。ただ高校生ですと、体の力を抜け、と言われてもなかなか難しいと思います。そこでお勧めなのが、ボールを見過ぎないこと。“ボールをよく見て捕れ”と子供の頃から言われ続けていると思いますが、実はボールをしっかり見ようと思った瞬間に、体に力が入るものなのです。体が突っ込みやすくもなります。実は僕は、打撃でもそうなるんです。ですから、ボールに一点集中し過ぎないで、ボールの周りを見る。ボールをボワーンと見るイメージでしょうか。視野を少し広くするだけで上半身の力が抜けますし、イレギュラーの反応も良くなると思います」
●藤田式メソッド その4
構えている時はいろいろなプレーを想定
「僕は構えている時、この場面でこういう打球が来たらこういうプレーをしよう、という感じに、いろいろなプレーを想定しています。滅多に起きない100回に1回のプレーも、可能性がある限りは想定しておく。そうすることで反応が難しいゴロにも、対応が難しいプレーにもスムーズに対応できる、と考えています」
後編でも引き続き、藤田選手の「藤田式メソッド」を紹介します。
(インタビュー/文・上原 伸一)
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