専修大学 髙橋 礼選手「アンダーハンドの利点」【前編】
188cmの長身を沈め、アンダーハンドから最速141kmのストレートを繰り出す専修大の高橋礼投手。大学球界を代表するサブマリンは、プロのスカウトからも熱い視線を集めている。
東都リーグ最多を更新する33度目の優勝に向かって右腕を撫す高橋投手に、下手投げに転向した経緯やフォーム作りで重視しているポイント、さらには下手投げだからこそ大事にしていることなどをお聞きしました。
上手投げに行き詰まり中2の冬にアンダーに
高橋礼投手(専修大)
ほとんどのアンダーハンド投手がはじめから下手投げでなかったように、専修大の高橋礼投手ももとは上手投げだった。アンダーハンドに転向したのは中学2年の冬。当時、高橋投手は硬式の流山ボーイズでプレーをしていた。転向のいきさつについて高橋投手はこう教えてくれた。
「ちょうど投手として悩んでいた時期でして。その頃で背は175cmあったんですが、上から思い切り投げても打ちごろのスピードしか出なかったんです。そんな僕に助言をしてくれたのが、早稲田大野球部に籍を置きながらコーチをしていた新佐古剛人さんでした。『腕を下げてみたらどうか?』と。はじめはアンダー気味のサイドでしたが、投げているうちに完全なアンダーになったんです」
高橋投手はアンダーハンドにすぐに馴染んだ。転向の苦労はなかったという。「僕に合っていたのだと思います。腕を下げて投げてみて、もし合わなかったら、違和感を覚えたら、たぶんそこで投手をやめていたでしょう」と高橋投手。投手をやめていたら、今年のドラフト候補でもある188cmの長身サブマリンは存在しなかった。アンダーハンドに転向したことで、高橋の野球人生が大きく変わったのだ。
「もし上手のままでいたら、ただ背が高い本格派というだけで、特徴がある投手にはなっていなかったと思います」
アンダーハンダーとしてのデビューは中学3年の春。試合で登板した高橋投手は「打者が下手からボールが来るのを嫌がっているように感じた」という。手応えもあった。「上から投げていた時よりもボールがいくようになりましたね」。
もともと器用なタイプ。下手に転向後、ほどなく変化球もマスターし、対外試合で披露した時は、緩急を使えるようにもなっていた。高橋投手は「真直ぐを投げるように変化球を投げる。これが僕の中でのアンダーハンドで変化球を投げる時のコツです」と話す。
下手投げのお手本は埼玉西武の牧田投手
高橋礼投手(専修大)
アンダーハンドになって変わったのは「(上手投げの時は自信がなかった)真っ直ぐでも打ち取れるようになったこと」だという。
「アンダーだと同じストレートでも変化をつけられるからです。下から浮き上がるような伸びのあるボールと、沈むボールが投げられるんです」
一方、高橋投手の変化球の球種は「どれも中途半端にならないように」と、今も決して多くはない。スライダー、チェンジアップ、シンカー、そして今年から習得に励んでいるカーブの4つだ。ストレートを合わせると5種類。しかし高橋投手に言わせると7種類になる。それは「真っ直ぐだけで、普通のと、伸びるのと、沈むのと、3種類ありますからね」。
アンダーになってしばらく手本にしていたのは、当時千葉ロッテの主戦として活躍していた渡辺俊介投手(現・新日鐵住金かずさマジックコーチ兼投手)。だが「渡辺さんの投げ方は自分にはしっくりこない」と、中3夏からフォームを真似るようになったのが、日本通運で投げていた牧田和久投手(2010年のドラフト2位指名で埼玉西武に入団)だった。
「日本通運に下手投げの好投手がいると聞き、動画サイトで見てみたら、僕に合っていると思いまして。今も牧田さんの動画はよく見ていて、参考にさせてもらっています」
「アンダースロー投手は上手投げとは全く別の生き物」
今年のWBCでも存在感を示した牧田投手の優れた点を、高橋投手は次のように見ている。
「まず緩急を上手に使えることですね。それと真直ぐと変化球のバランスもいい。スピードガンの数字以上に感じさせるストレートで押せるのも、牧田さんの強みだと思います。特に調子がいい時は、インサイドのボール球に打者が手を出しますからね」
また、牧田投手が登板する試合をテレビ観戦する時は「牧田さんを自分に置き換えている」という。
「抑えた時も打たれた時も、ここがこうだからそういう結果になった、と分析するようにしています。打たれる時は、これは上手投げもそうですが、真中に入ったストレートがシュート回転してしまうと、その確率が高くなるような気がします」
高橋投手は「プロで投げ合いたい」牧田投手には、まだ実際に会ったことはないが、今年春のオープン戦では渡辺投手と話をする機会に恵まれた。
「嬉しかったですね。渡辺さんも下手投げの僕にとって憧れの人ですから。渡辺さんからは『アンダーは打者からすると、どの球種も同じ腕の振りで来るのが厄介だと思っている』ということと『そのアンダーが変化球を投げる時に少し握りを変えると、打者には全く別のボールに見える』とアドバイスをいただきました」
「アンダースロー投手は上手投げとは全く別の生き物」と言う高橋投手は、牧田投手や渡辺投手に限らず、他の全ての下手投げ投手に興味を持っている。「どんな投げ方でどんなボールを投げているのか、アンダースロー投手には常にアンテナを張っています」と話す。(後編に続く)
(インタビュー/文・上原 伸一)
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