株式会社ザナックス・佐々木 敏夫社長×広島東洋カープ・緒方 孝市監督対談「スポーツの存在価値」を伝えるために
昨年、37年ぶりのセ・リーグ連覇を成し遂げた広島東洋カープ・緒方 孝市監督。個性あふれる若い選手たちを「強き集団」にまとめあげる手腕は野球界を超え、スポーツ界でも大きな注目を集めている。
では、緒方監督の成功から私たちは何を学び、何を社会に活かしていけばいいのだろうか?今回は株式会社ザナックス代表取締役社長である佐々木敏夫氏と緒方監督との対談を通じ「スポーツの意義と価値」を広げる方法について考えていきたい。
広島東洋カープを支える様々な「力」
株式会社ザナックス・佐々木 敏夫社長(以下、佐々木):まずは広島東洋カープ37年ぶりのセ・リーグ連覇おめでとうございます。
広島東洋カープ・緒方 孝市監督(以下、緒方監督)::ありがとうございます。今年はチーム初の3連覇に挑戦していきますが、これはセ・リーグでも原 辰徳さんが監督をされていた巨人が2度(2007~2009年、2014~2016年)された以来のことになります。
ただ、優勝するだけでも難しいのに2連覇できたのは、選手たちの力も大きいですし、応援して下さったファンの力……。今、カープには、広島だけでなく大阪でも、東京でも、スタンドの半分がカープファンで埋まり、ものすごい声援を送って下さいます。本当に全国的な人気になった。心からありがたく思うし、我々にとって真の心の支えになっています。「まさか、ここまで」と思います。
佐々木:緒方さんが現役をされていた時のホームは広島市民球場でしたね?
緒方監督:僕はマツダスタジアムで1年プレーさせてもらって(2009年)引退したのですが、それまでは歴史のある古い球場でした。当時は土曜日曜の巨人戦しか球場は埋まりませんでしたし、成績の方もBクラス。4位か5位でずっと戦っている時代でした。
それに比べれば今の選手たちは本当に幸せです。マツダスタジアムでは真っ赤なスタンド、土曜日日曜日でも平日でもほぼ満員の中でプレーできる。選手冥利に尽きます。今の選手はその声援をプレッシャーでなく、力に変えてくれています。うれしい限り、ありがたいことです。
佐々木:でも、昔から、「一頭のライオンに率いられた百頭の羊と、一頭の羊に率いられた百頭のライオンとではどちらが強いか?それは一頭のライオンに率いられた百頭の羊の方が、一頭の羊に率いられた百頭のライオンより強い」(*語源はナポレオン三世)と言われています。組織は正に「長」、すなわちリーダーで決まると思います。
緒方監督:いやいや、そんなことは……。でも、思うのは僕自身が1試合1試合、頭と身体で汗をかいて全力で戦うのは当然なことなんですが、そこにはコーチのサポートが欠かせない。コーチだけでなく選手を支えるトレーナーさんや裏方さん、彼らの働きが大きいです。
僕は選手に直接言わず、スタッフに「あれをしてくれ、これをしてくれ」と、時にはキツイ言葉も交えて要望しますが、その中で選手たちを頑張らせ、サポートしてくれている、彼らの力は大きいです。
「スポーツの存在価値」の伝え方
佐々木:私は緒方さんにお願いしたいことがあります。プロ野球はエンターテイメントの部分もあるとは思いますが、子どもたちに何かを伝えて頂きたいのです。
ザナックスの経営理念は、「健全な社会創りは、健全なスポーツライフスタイルと人財育成から生まれる。我々はスポーツビジネスを通した、日々『新たな価値』の提案と、ザナックス社員の成長により、社会に貢献する。」です。
そしてその補足として、スポーツは「チャレンジ」「夢」「感動」「友情」「フェアー」「礼儀」「忍耐」「リフレッシュ」「愉快」「健康」「コミュニケーション」といった言葉に代表されるように、人生に有益なものを与えてくれます。又健全な社会は、優れた人財なくしては実現できません。由って、健全な社会創りは、健全なスポーツライフスタイルと人々の成長から生まれるのです。と説明をつけています。
私はスポーツを通して、今お伝えしたようなスポーツが持つ価値を一人でも多くの方々に実感して欲しいと思っています。
特に学生時代には、スポーツを通して、「チャレンジ」「夢」「感動」「友情」「フェアー」「礼儀」「忍耐」等を身につけたり、体験したりして、「人間力」「考える力」「感謝力」「思いやり」「チームワーク」「マナー」「品格」等の実力を高めて、世界に通用する一流の人財に育ってもらいたいと思っています。
だからプロ野球を通して何かを学ばせてもらえたら、と思っています。端的に言えば「強ければいい」「勝てばいい」というのではダメで、例え10対0で負けている試合でも、最後まで全選手がわずかな勝つ可能性に全てをかけて全力でプレーする。その気迫と執念が人々の心を打ち話題になる。一流選手も最後まで手をぬかない、あきらめずに粘ることの価値、リーダーとしての生きざま、そして、選手たちも「スランプの時や、苦しいときに何が心の支えとなって頑張れたのか」、「苦境から這い上がってきて現在はどう感じているのか」等も語ってほしいと思っています。
緒方監督:僕も毎年、故郷の佐賀県鳥栖市で少年野球教室を開いていますが、実際には短い時間では技術指導をするのは難しいんですよ。
でもプロ野球選手を交えたコミュニケーションができること自体が大事なんです。我々はユニフォームを着ている以上は子供たちにとってあこがれの存在です。そういった選手と身近に接して、言葉を交わす。その時間を持つことこそが大事だと思います。
そして自分が子どもたちに言い続けていることは「今はわからないかもしれないけれど、全てに感謝の気持ちを持って欲しい。大好きな野球を楽しくできる時間がある。学校に通える。ご飯が毎日食べられるのは親のおかげ、仲間の存在があってこそ助け合える、競い合える、自分たちが練習するためのグランドを予約してくれる人がいる。水などの用意をしてくれる人がいる。仕事があるのに、みんなの練習を見守り支えてくれる人がいる。」など、数多くの人々のおかげで野球ができる。生活ができる。そこに気付いてほしい」この一心で教えています。
今まであいさつをしていなかった子があいさつをする。用具を大事にするようになる。「ありがとう」を素直にいえる。この教室をきっかけに、1人でも2人でも行動や考え方が少しでも変化すればと思っています。
佐々木:おっしゃる通りです。
緒方監督:佐々木社長の言われる通り、僕もスポーツが与える力は大きいと思います。2年連続セ・リーグ優勝した時に優勝パレードもやらせてもらいましたが、そこで沿道に集まって下さった何十万人もの皆さんに言われるのは、「おめでとう」じゃないんです。「ありがとう」なんです。涙を流しながら最後まで「ありがとう」と言っていただいたんです。
カープを愛して、心の底から応援していただいている。あの瞬間は僕らも人生でめったに味わえないことを味わさせてもらったと思っています。だからこそ、我々は勝たなくてはいけない。そして「ただ勝てばいい」だけじゃないんです。
勝つにしろ、負けるにしろ、最後まで自分たちカープの野球をすること。我々はプロなんですから。では「プロ」とは何か?「あこがれの存在」なんです。野球選手の頂点にいる存在。となれば、全力疾走をしない。グラウンドに唾を吐く。そんなのはもってのほかなんです。
最後の最後、ゲームセットの時まで執念を燃やして、最後まで貪欲にプレーする。この姿を見せてはじめて、「勝っても負けてもお金を払って見に行く」存在になれるんです。僕が選手に常々言っているのはこれだけです。
佐々木:人間は生を受けて、いずれ死んでいくわけですが、自分が苦しい時、悲しい時にあの人からこんな言葉をかけてもらった、又助けていただいた、という事は、その人が亡くなっても、それを受けた人の心の中で、その人は生き続けると思います。
プロ野球の選手のプレーも、もし仮に、そのプレーヤーが亡くなった後もファンの心の中で生き続けるのではないでしょうか。その様な真摯な姿勢でプレーに取り組む、選手の言動、行動、態度が子供たちの人生を変えるという可能性も大いにあります。
緒方監督:そうなってくれてればと僕も思っています。
手を取り合い「スポーツの存在価値」を伝える
佐々木:そして選手時代から緒方監督と用具契約を結んできた株式会社ザナックスは、広島東洋カープ・緒方 孝市監督と再度アドバイザー契約を締結させて頂きました。
緒方監督:まだプロ3~4年目の時、大野 豊さんから紹介されて、バットとグラブを使い始めたのが株式会社ザナックスさんとパートナーを組むようになったきっかけです。若い時から用具を提供して頂いたのはすごくありがたかったですし、それから20年ほど使わせて頂いています。
時代と共にグラブもバットも進化していく中でいろいろな要望も聴いて頂きました。
佐々木:私は緒方さんが現役時代に膝、腰、足首などのケガで、数回の手術をされながらも、ぶれずに、グチも言わずに、一途に復帰を目指された姿に、高貴さとプライドを感じていました。緒方さんの生きざま、価値観、人生観も含めて、今後発信していきたいと思っています。
緒方監督:最初は「僕でいいのかな」とも思いましたが、3連覇して優勝会見でザナックスのTシャツを着たい。それが恩返しと考えています。
佐々木:大変うれしいお言葉ありがとうございます。株式会社ザナックスベースボール事業部も精一杯、緒方監督をサポートしていきますので今後とも宜しく御願い致します。今回は誠にありがとうございました。
緒方監督:ありがとうございました。