好投手、好捕手、好遊撃手で沸いた平成最後の甲子園!
史上最多58名の140キロオーバーの投手
150キロを超えた4人
大阪桐蔭の優勝で幕を閉じた第100回高校野球選手権記念大会の最大の特徴は、投手は140キロの大台を超えた選手が史上最多の58人を数えたことと、野手は強肩キャッチャーと好守のショートが多かったことだろう。
投手は140キロ超えのさらにもうワンランク上、150キロ超えが史上最多の4人を数えた。星稜・奥川恭伸(2年)は先発して8回を投げた開幕ゲームの藤蔭戦で150キロ、大阪桐蔭・柿木蓮(3年)は2回戦の沖学園戦でリリーフして151キロ、日大三・井上広輝(2年)は先発した2回戦の奈良大付戦で150キロ、そして金足農・吉田輝星(3年)は先発した3回戦の横浜戦、9回表に150キロを計測し、野球ファンをあっと言わせた。
松坂大輔(横浜)が大活躍した1998年、140キロ超えは7人しかいなかった。それが20年後には8倍強に増大。高校卒のピッチャーがプロ1、2年で頭角を現すことが多くなったのもこのスピードアップと無縁ではない。一言で言えば、ウエートトレーニングの進歩によって高校球児の体作りに一大革命がもたらされた。バッターなら甲子園でのホームランが増えたのも同じ理由だ(今大会の通算51本塁打は大会史上4位の記録)。
150キロを超えた4人の中で投球フォームが盤石と言える選手はいない。吉田、奥川、柿木、井上はいずれもステップした下半身をすぐ上半身が追いかける。こういう選手はテークバック時の割れが不十分でストレートに下半身の力が十分に伝わらない恐れがある。吉田にもそういう改良点があるが、リリースでボールを押さえ込めるので低めのストレートが伸び、変化球のキレも超高校級。さらに、一塁けん制、バント処理で見せる好判断などディフェンス面もよく、桑田真澄(PL学園)、松坂大輔(横浜)、前田健太(PL学園)に通じる美質を多く備えている。
[page_break名選手が集まったキャッチャーとショート]名選手が集まったキャッチャーとショート
小園海斗と有馬諒(一部、共同通信社)
キャッチャーはイニング間の二塁送球タイムで2秒未満が続出した。イニング間の1.8秒台は7人いて、実戦での2秒未満は8人もいた。有馬諒(近江2年)杉森圭輔(敦賀気比3年)、小泉航平(大阪桐蔭3年)、小池悠平(前橋育英3年)の4人はバッティングのよさでも印象に残り、この中でも有馬のディフェンス力には強く惹かれた。
準々決勝・金足農戦の5回裏、金足農は1死三塁の場面で2番打者がスクイズを敢行。これを投手の林優樹がダッシュしてグラブトスを試みるが打球はグラブをすり抜けて三塁走者が生還。この流れなら打者走者も一塁に生きそうだが、有馬は三塁走者には目をくれず打球を捕るやいなや素早く一塁に送球して2死目を取った。次打者の吉田輝星がヒットを打っているので、前の打者走者が生きていれば追加点が入っていてもおかしくない場面だ。
ショートの好選手も多かった。小園海斗(報徳学園3年)、根尾昂(大阪桐蔭3年)を筆頭に、石井巧(作新学院2年)、韮澤雄也(花咲徳栄2年)、奈良間大己(常葉大菊川3年)、松田憲之朗(龍谷大平安3年)、首藤舜己(益田東3年)など走攻守3拍子が揃った選手が続出。この中で、守備でひときわ目を引いたのが小園だ。
1回戦の聖光学院戦では内野と外野を分けるラインの外側、つまり芝生の上で守っていた。聖光学院の田野孔誠(3年)と守備位置をくらべると明らかに身長分以上の差があるので、約2メートル深いと言ってもいい。肩の強さやフィールディングに対する自信、さらに二、三塁手に対する信頼感がなければこの深いポジショニングは取れない。
根尾は投手と兼任するためか小園のような専任ショートの安定感がなかった。春のセンバツ時にくらべると捕球後に余分なステップを踏み、スローイングも大きなテークバックを取る分、プレーから速さが失われていた。
1回戦で常葉大菊川に7対8で敗れたが、守備だけなら首藤が小園に次いで光っていた。158センチ、58キロで右投げ右打ち、この小兵が打っては5打数3安打の猛打賞、守っては強肩と好フィールディングでU18アジア選手権代表に選ばれた常葉大菊川のショート、奈良間より目立っていた。
8回裏には常葉大菊川の2番、東虎之介がショートゴロを打ったあと打席内で倒れてしまい、捕球した首藤はボールを手に持ったまま一塁まで走ってベースを踏んでアウトにしたが、打者走者の状態を見ればこれ以上確実にアウトにするための方法はない。
[page_break大きく変貌を遂げた名門校]大きく変貌を遂げた名門校
横浜 齊藤大輝
さて、投手、捕手、遊撃手のセンターラインを中心に第100回大会を振り返ってきたが、目を奪われたのは横浜、報徳、愛工大名電のこれまでとは違う姿だ。
横浜は2回戦の花咲徳栄戦で私が俊足の基準にする打者走者の「一塁到達4.3秒未満、二塁到達8.3秒未満、三塁到達12秒未満」を4人(4回)がクリアしたが、渡辺元智・前監督のときはこれほど走らなかった。「走らない」という意思ではなく、打者走者の全力疾走に大きな価値を見出していなかったような気がする。小技でなく選手の能力を前面に押し出したパフォーマンス重視の野球が渡辺監督の持ち味で横浜の魅力だったと言い直した方がいいかもしれない。
報徳学園はもっと変化が激しい。1回戦の聖光学院戦、何と大会ナンバーワンの7人(11回)が「一塁到達4.3秒未満~」をクリアしているのだ。小園などは3本の二塁打を放ち、このときの二塁到達タイムは7.57秒、7.76秒、7.71秒という迫力。永田裕治・前監督(U18アジア選手権・監督)のときはこれほど激しく走っていない。準々決勝の済美戦は2対3で惜敗したが4人(8回)が私が設定した俊足の基準をクリアして、生まれ変わった報徳学園の魅力を存分に見せつけた。
愛工大名電はチームの代名詞とも言うべき「バント」を封印することで、倉野光生監督にとっての「夏の大会初勝利」をつかんだ。スポーツ紙の記事によるとこの春から練習試合、公式戦の成績を数値化してレギュラー選出の基準にしているという。たとえば、野手なら「単打1点、本塁打4点、四球1点、盗塁1点、得点1点」、マイナスのプレーは「失策-1点、見逃し三振-1点」という具合に得点、失点を合算し、通算ポイントの上位からレギュラーに選出しているという。
平田徹・横浜監督35歳(数え年齢)、大角健二・報徳学園監督38歳にくらべ、倉野監督は今年60歳のベテラン監督である。ここからでも新しい道に向って踏み出せるという姿は選手より全国の監督に勇気を与えたと思う。
[page_break各ポジションのベスト3発表!]各ポジションのベスト3発表!
1年生ながら活躍した、井上朋也(花咲徳栄)
さて、最後に私が考えた今大会のベストナインを紹介することにする。まず各ポジションのベスト3は次の通りだ(選出基準はドラフト的目線)。
◇右投手
吉田輝星(金足農3年)、渡邉勇太朗(浦和学院3年)、柿木蓮(大阪桐蔭3年)、※次点=西純矢(創志学園2年)
◇左投手
山田龍聖(高岡商3年)、及川雅貴(横浜2年)、林優樹(近江2年)
◇捕手
小泉航平(大阪桐蔭3年)、有馬諒(近江2年)、小池悠平(前橋育英3年)、※次点=杉森圭輔(敦賀気比3年)
◇一塁手
野村佑希(花咲徳栄3年)、内海貴斗(横浜2年)、野尻幸輝(木更津総合3年)
◇二塁手
横浜斎藤大輝(横浜3年)、矢野功一郎(済美3年)、黒川史陽(智弁和歌山2年)
◇三塁手
北村恵吾(近江3年)、井林泰雅(高岡商2年)、西脇大晴(愛工大名電3年)
◇遊撃手
小園海斗(報徳学園3年)、根尾昂(大阪桐蔭3年)、松田憲之朗(龍谷大平安3年)
◇左翼手
宮﨑仁斗(大阪桐蔭3年)、三浦光翔(鳴門3年)、東健太郎(八戸学院光星3年)
◇中堅手
藤原恭大(大阪桐蔭3年)、蛭間拓哉(浦和学院3年)、17038(龍谷大平安3年)、※次点=万波中正(横浜3年)
◇右翼手
井上朋也(花咲徳栄1年)、大谷拓海(中央学院3年)、青地斗舞(大阪桐蔭3年)
[page_break100回大会にふさわしいベストナイン]
100回大会にふさわしいベストナイン
今後の活躍も楽しみなベストナイン3人(一部、共同通信社)
この中から選んだベストナインは以下の通りだ(外野手は左、中、右に関係なく3人選んだ)。
[右投手]吉田輝星
[左投手]山田龍聖
[捕 手]有馬諒
[一塁手]野村佑希
[二塁手]斉藤大輝
[三塁手]北村恵吾
[遊撃手]小園海斗
外野手はセンターが本職の3人を選んだが、やはりうまい人はセンターに集まるのだなと再認識させられた。
文=小関 順二