Column

技術よりも人間としての在り方を大切にする!浅間大基を輩出した新宿シニア(東京)に迫る

2018.12.04

 東京都、荒川沿いの河川敷グランドで練習を行っている新宿リトルシニア。その歴史は長く、発足は1974年になる。2002年に、日本選手権大会に初出場を果たすと、 その後は日本選手権には8度、全国選抜大会出場には7度出場し、東京都内でも指折りのリトルシニアとして名を鳴らすようになった。
 今回はそんな新宿リトルシニアの緒方将介監督にお話を伺い、チームの指導方針や選手との関わり方、そして同チームのOBである日本ハムファイターズの淺間大基選手のリトルシニア時代について語っていただいた。

練習は真面目でとにかく仲間を大事にしていた淺間大基

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ケースノックを行う様子

 俊足巧打の外野手として横浜高校で活躍し、2014年にドラフト3位で日本ハムファイターズへと入団した淺間大基選手。恩師である緒方監督に、淺間選手のリトルシニア時代について伺うと、懐かしそうな笑顔を浮かべて次のように語り始めた。

 「あの子はグラウンドの中では真面目。入った時から(実力が)抜けていましたが、「俺は出来る」という感じではなく、ただ黙々とやるタイプでした。
 ただ、グラウンドを出ると、友達とワイワイするタイプでしたね。チームメイトで上手くいかない選手がいると、「ここはこうじゃないかな」とアドバイスをしたりして、すごくチームメイトを大事にする子でしたね」

 「グラウンドの中では真面目で、チームメイトをすごく大事にする」
 そんな淺間選手を、象徴するようなエピソードがある。リトルシニア時代、淺間選手は肩を故障して5か月間、野球が出来ない時期があった。新宿リトルシニアでは、故障者が飲み物を作るなどの雑用を行うことになっているが、淺間選手はチームメイトのためにという思いで、私語の一つも漏らさずに黙々と雑用を行っていた。

 緒方監督は、淺間選手のそういった真面目さや仲間思いの性格があったからこそ、リトルシニアや高校で活躍することができ、プロの舞台へ進むことが出来たのではないかと熱く語る。

 「シニア時代のチームメイトは今でも大事にしているようですね。プロに入ってからも元チームメイトの7、8人で、男だけでディズニーランドに行ったみたいです」

 そんな淺間選手も来年でプロ5年目を迎えるが、ここまで1軍に定着するまでには至っていない。プロの世界でもがき苦しんでいることが見て取れるが、緒方監督は淺間選手の活躍を心から信じている。

「いまだに新宿シニアにも顔を出してくれるし、横浜高校にもしっかり挨拶に行っているみたいです。彼は本当律儀で良い子です。
 だから今は、もがいていますが頑張ってほしいですね。日本ハムは生活面でも色々教えていただいているみたいですし、みんなに夢を与えてくれたらいいなと思います」

[page_break:野球の技術以上に「挨拶・礼儀・感謝」を突き詰めて理解させる]

野球の技術以上に「挨拶・礼儀・感謝」を突き詰めて理解させる

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今年、リトルシニア日本代表に選ばれた市川祐

 淺間選手について語る緒方監督は、技術や野球選手としての能力よりも「仲間を大切にする人間性」を強く強調する。そしてそれは緒方監督が選手を育成する上で、技術や体力の向上よりも、一人の人間としての在り方を重視している事を強く表わしている。

 新宿リトルシニアでは技術の指導以上に、学校生活や授業態度、学業成績や道具を大切に扱うことの重要性を厳しく指導していると緒方監督は語る。

 「どこのチームも言ってると思いますが、挨拶、礼儀、感謝をしっかりと言い続けています。なぜ挨拶をするのか、なぜ礼儀を大切にしないといけないのか、なぜ感謝をしないといけないのかというところを突き詰めて、それをしっかりと実行した上で野球があるということを理解させます。
 だから野球が上手いだけでは贔屓しませんし、当然試合にも出しませんし、ベンチにも入れません」

 こうした指導方針は、常にチーム内のスタッフにも共有していると緒方監督は語る。一般社会で必要なことを、野球を通じて身に付けさせるということをスタッフ全員が意識する中で、チームが運営されているのだ。

 「ウチの指導方針は、高校の先生方にも理解をしていただいているようです。意外と個人で誘ってもらうというよりも、誰か新宿シニアの子いますか、みたいな感じで言われます。
 僕はそれでいいかなと思ってて、うまい子はそこで甲子園狙えばいいし、それこそプロを狙えばいい。
 野球チームなんで野球はやりますが、野球以外に何を学んで帰るかが大事だと思います」

 こうした緒方監督の指導方針があったからこそ、淺間選手のような人間性豊かな人材が新宿リトルシニアから生まれたと言っても過言では無い。新宿リトルシニアは、高校野球界だけでなく、日本社会にも通用する人材を輩出しているのだ。

[page_break:「自ら考えて試行錯誤を繰り返す」ことが野球にも人生にも繋がる]

「自ら考えて試行錯誤を繰り返す」ことが野球にも人生にも繋がる

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新宿リトルシニアは「自ら考えて試行錯誤を繰り返す」ことを重要視している

 選手の人間としての育成を第一に考える緒方監督。だが、もちろん野球選手としての技術、体力の向上も明確な指導方針を持って取り組んでいる。
 技術向上を図る上で、緒方監督がまず最初に挙げたのが「数をこなして感覚を大事にさせる」ことだ。

 「人間って人から聞いた事って忘れがちになったり、少しズレて認識してたりします。だから自分で色々試しながら数をこなすように言っています。
 打つことであれば10球打つよりも100球打て、守備であればボールを10球取るよりも100球取れ、そうやって自分でこれだっていう感覚を掴めば、一生のものになるからという話を選手達にはしています」

 新宿リトルシニアには、リトルシニア日本代表にも選出された市川祐投手という大型右腕がいるが、市川投手の指導においても「感覚を大事にする」ことを常に言ってきたと緒方監督は語る。
 「市川にもキャッチボールでもっと遊べと言っています。僕らが中学のときもピッチャーじゃないのにカーブ投げたりと、変化球で遊んでいました。遊びの中で学んだものって感覚じゃないですか。
 だから大雑把かもしれないんですけど、感覚というのは一番大事なことだと思っていますね」

 緒方監督は、選手達に野球を通じて考えることができる人間になって欲しいと熱く話す。「感覚を大事にする」という指導も、「自ら考えて試行錯誤を繰り返す」ことを選手たちに身に付けて欲しいという思いが根底にあるのだ。

 「すべて人間としての在り方に繋がってきますが、失敗したからもうダメだではなくて、
失敗したけどどうやれば成功するのかなと考えて欲しいです。それが、彼らが仕事をするようになったときに生きると思っています。
 僕も含めて、このチームも失敗の連続でしたし、初めは負けからスタートしているチームですから」

 技術や体力の指導でも、最終的には「人間としての在り方」に繋がっていく。そんな緒方監督の指導の下、次はどんな選手が新宿リトルシニアから輩出されるのだろうか。
 新宿リトルシニアから、今後も目が離せない。

(文・栗崎 祐太朗

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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