ライバルが恐れ、リスペクトする野球小僧・冨水大和(網走桂陽) 145キロ右腕はどんな進化を辿るのか
北海道北見支部。以前、遠軽の強肩捕手・浅野駿吾選手を紹介したが、北見支部にはまだまだ逸材がいる。網走桂陽の冨水大和は、最速145キロを誇る本格派右腕だ。部員17人の小所帯のチームを引っ張る冨水は、他校のライバルから恐れられる選手。ではいったいどんな選手なのだろうか。
投手だけではなく、打者としても走者としても野球センスの高さを発揮!
冨水大和
「冨水とは小学校時代から対戦経験がありますが、当時は三塁手で、抜群に上手いので、サードには打つなといわれているほど良い選手でした」(遠軽捕手・浅野駿吾)
「投手、野手としても尊敬できる選手です。本当に良い選手だと思っています」(網走南ヶ丘投手・石澤大和」
学童野球・網走ポプラクラブ時代から有名だった冨水。中学では主に遊撃手がメインで、高校から肩の強さを見込まれ投手に転向。2年生の時は140キロまで到達したが、制球力が悪く、死球を与えることも多かった。
昨秋の北見支部予選で北見柏陽に敗れ、制球力が課題だと痛感した冨水は、フォームを見直した。横振りになり、リリースポイントが乱れがちだったため、吉田輝星(金足農‐北海道日本ハム)の投球フォームを参考にしながら、なるべく縦回転で腕が振れる動きに修正。さらにウエイトトレーニングにも着手。当初スクワットは100キロに満たなかったが、今では150キロを持ち上げるまでになった。こうした取り組みもあり、今春最速145キロを計測した。
注目の網走南ヶ丘戦。気温9度で、さらに小雨も降る厳しいグラウンドコンディションの中、冨水は常時130キロ後半から最速142キロの速球を武器に迫る。本人は「コントロールがよくなく、全然ダメだった」と振り返るが、要所では力のあるストレートを投げ込み、網走南ヶ丘打線を抑え込む。
そして投球と同じくらい良かったのは打撃だ。相手投手・石澤が投じる140キロ前半の速球とキレのある130キロ前後のスライダーに対しても全く苦にせず、第1打席でいきなり右中間を破る適時三塁打。その後も安打を重ね、4安打を記録した。
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冨水大和
冨水は「石澤については事前に知っていたので、石澤対策はできていました」というが、多くの選手がボール球やスライダーに手を出して三振しているのに対し、冨水はボール球はしっかりと見送り、ストライクゾーンに入ったボールは打ち返す。好投手攻略の基本だが、簡単にできるものではないからこそ、冨水の凄さが際立つ。
網走桂陽の輿水監督や他校の指導者からも野手としての評価が高かったが、そのすごさが十分に理解できる4安打だった。さらに冨水は足でも魅せる。
6回表、二塁に到達した冨水は三盗を敢行。
「投手の動きを見て、走れると思いましたし、普段から三盗の練習はしているので」
見事に成功させ、さらに一、三塁の場面から、一塁走者が挟まれる間にスタートを切り本塁を陥れた。ユニフォームを泥んこにしながら、駆け込んだ冨水の姿はまさに野球小僧そのものだった。
投手の石澤は「あの時、グラウンドコートを着用していたので、走りはないと思っていました。三盗を決められたり、打撃もすごいですし、投手としても本当に速いので、本当に尊敬しています」と脱帽の様子だった。
左手でホームベースをタッチにいく冨水大和(網走桂陽)
7回表に打ち込まれ逆転を許してしまったが、それでも17人を引っ張る選手としてのポテンシャル、野球センスの高さは十分に伝わった試合だった。
冨水は「コントロールもまだまだですし、もっと鍛えていきたい。また守備でのミスが多くあったので、夏の大会まであと1か月しかないですが、しっかりと鍛えていきたい」と自身とチームの課題を述べた。
投手としてのポテンシャルはまだこんなものではない。輿水監督も「暖かくなれれば、もっと球速は上がっていくと思います」とエースに期待を込めた。
17人で夏に臨む網走桂陽。その先頭を引っ張る冨水は要注目だ。
文=河嶋 宗一