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「捕手に転向してアイツの良さがすべて出た」 原口文仁(阪神)の捕手転向秘話

2019.06.04

 6月4日、阪神タイガースにあの男が帰ってきた。阪神が誇る強打強肩の好捕手・原口文仁が、交流戦開幕戦・千葉ロッテ([stadium]QVCマリンフィールド[/stadium])戦で一軍復帰する。

 今年1月に大腸がんを公表。手術、リハビリを乗り越えて4ヶ月で一軍復帰となった。そんな原口選手の復帰を心待ちにしていた方がいる。それが帝京高校時代の恩師・前田三夫監督だ。前田監督は捕手・原口を見出した方で、前田監督の存在がなければプロ入りもない。そんな原口の捕手転向秘話や原口の素晴らしい人間性を表すエピソードを紹介していただいた。

最初から適正があったわけではなく、最後の選択肢が捕手

「捕手に転向してアイツの良さがすべて出た」 原口文仁(阪神)の捕手転向秘話 | 高校野球ドットコム
帝京高校時代の原口文仁

 「原口は最初から捕手ではなく、一塁か、外野の兼任でした。肩はまあまあ良かったんですが、守備が下手くそでした。それならとサードをやらせたら、サードゴロが試合で捕れなくて『何をやってんだよー』と(笑) ピッチャーをやらせたんだけどそれもダメ。それが1年間続いて、高校2年生の時ですね。原口はバッティングがいいので、『お前、どこかやったことないか』と訊いたら、『小学校の時にキャッチャーをやったことがあります』と言うのでやらせてみたら、それがハマるんですよ」

 最初から適正があって転向したわけではなく、いろいろ試した中で最後の選択肢が捕手だった。しかし、その能力の高さは前田監督も驚きのものだった。
 「彼は指示が的確なので、チームが締まるし、投手も育つ。こいつ、こういうところがあるんだなと思いました。あと飲み込みが早い、早い!アイツは研究熱心だったんですよ」

 もし捕手に転向しなければ、原口のプロ入りはなかったかもしれない。大英断だった。前田監督は原口の努力ぶりに一目置いていた。原口は埼玉県の北西部にある寄居町出身で、学校まで実家から通っていた。
 「本当に遠い、遠い場所から通っていたんですよ。それで家に帰ってよく親父さんとティーを打ったらしいですよ。影での努力が一番身になりますよね」

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原口文仁の恩師・前田三夫監督(帝京)

 また、投手から信頼を集めるためにフォローも忘れなかった。原口と同世代には149キロ右腕の平原 庸多(元東京ガス)、1学年下には山崎康晃(横浜DeNA)、鈴木昇太(東海大卒)、そして2学年下には当時、スーパー1年生として注目を浴びていた伊藤拓郎(現・新日鐵住金鹿島)とプロ注目の好投手が勢揃いだったが、前田監督は彼らの成長と活躍は原口の功績が大きかったと語る。

 「彼は影でこうだ、こうだということを必死になってピッチャーにアドバイスしたりしてましたからね。だからピッチャーも投げやすかったでしょう」

 そして前田監督が捕手・原口の最も評価している点は人間性だ。
 「私は何回も甲子園に出させてもらってますから、多くの良い捕手がいましたが、その中において特に原口の場合、打たれても腐らないんです。それでピッチャーが投げやすかったんだと思います。ピッチャーが打たれた時でも『俺の責任だ』ということを言い切ってましたから。コイツはピッチャーの心理をきっちり押さえてカバーしているなと想いましたね。普通、ピッチャーが打たれたら『何やってんだよ』と怒る捕手もいるんですが、彼の場合、そういうのは無かったもんね」

 地道に攻守で実力を伸ばし、3年夏に甲子園出場。正捕手としてベスト8入りに貢献した。そして、日米親善高校野球大会の日本代表にも選ばれた原口は、そこでも献身的な姿勢で代表投手たちを支えた。
 「高野連本部の中沢記念館(中沢佐伯記念野球会館)で合宿をしたんですよ。そうしたらピッチャー全員のところへ本人が回って、球種は何か、得意なボールは何か、何で三振を取れるのか、みんなメモしたらしいです。それを後で聞きました。彼のそこが良いところだと思います」

[page_break:多くの人が心配し、応援してもらえるのはアイツの人間性があってこそ]

多くの人が心配し、応援してもらえるのはアイツの人間性があってこそ

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原口文仁

 最終学年にはドラフト候補として注目を浴びていた原口。しかし前田監督は高卒プロは厳しいと見ていた。ただ阪神関係者の評価は高かった。

 「プロ入りした選手の中で、入学からプロに行けるなと思う選手とそうではない選手がいるのですが、原口は後者。実力をつけた3年生になっても厳しいと思っていました。まだまだキャッチャーとしては未熟でしたから。でも、阪神スカウトの中尾孝義さんが来た時『絶対イケるよ、前田さん』と言っていただいて、太鼓判を押してたんです」
 そして原口は阪神からドラフト6位指名を受け、プロの門を叩く。

 ただ、プロ入りしてからはヘルニアなど怪我に苦しみ、育成選手として過ごす期間も長く続いた。前田監督も「心配しましたね。厳しいかな、退団するのかなと思った時期はありましたよ」と振り返る。

 それでも阪神関係者、報道関係者から高校時代と変わらず人間性の高さを評価されていた。前田監督が夏の選手権大会の解説で、甲子園にいくと、報道関係者から声をかけられる。
 「放送局の人から『前田さん、原口っていうのはいい男だな。あれは野球がダメでも(球団に)残るで』という言葉をいただいたんです。それは嬉しかったです。アイツは本当に親切なやつで、オフに母校に帰ると、後輩たちへの眼差しが暖かい。OB連中からの『アイツは大したやつだ』といわれていましたね」

 そしてプロ7年目の2016年、一軍に定着して、107試合で11本塁打を放ち、ブレイク。そして2018年には代打の切り札として出場。代打として23安打は球団記録に並び、右打者としては最高記録となった。長い時間をかけてのブレイクに前田監督も「嬉しかったです」と喜んだ。

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原口文仁の笑顔がグラウンドで見られるのを楽しみにしたい!

 さらなる期待がかけられた2019年だったが、大腸がんを患っているのが発覚した。前田監督にとってもショックなニュースだった。
 「だから正直言ってあの報道が出た直後はこっちもショックでね。そういう良いヤツだから連絡が取れなかったね。なんて言っていいかね。ああいう男だから、私が連絡したら心配をかけまいとするだろうし。だから静観していたんです。
 無事に手術が終わった後に『どうだい?』ということで電話したら、『ああ、大丈夫です。手術も成功しました』と。

 それで練習を開始したという報告を受けて、私も嬉しくなって彼に電話をしたんです。それは日中だったから出なかった。夕方電話がかかってきてね。『練習できるようになりました』と。ずいぶん声が弾んでて、いい声をしていたので良かったなと思いました」と安堵の表情を見せた。

 最後に、一軍復帰が決まった教え子にエールをいただいた。
 「みんなが心配してくれているのは彼の人間性あるからこそだと思うし、自分のためにも、球団のためにも、声援してくれるファンのためにも、頑張ってもらいたいです。みんなが心配してくれているんだから、感謝の気持ちを持ってやってもらいたいです」

 原口は自身のSNSで「皆さんの希望に、少しでも、ほんの少しでもなれるよう精一杯プレーしてきます!」と語ったが、原口の野球人生は多くの人々に勇気と希望、人として大事なものをもらえるものとなっている。

(取材・文=河嶋 宗一

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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