いつもみんなで野球ができることが一番大切。古豪・柳井(山口)ナインは甲子園中止からどう立ち上がったのか
1958年には甲子園優勝経験を持つ伝統校・柳井高校(山口)。近年、舛永隆宏監督の発案で、2018年1月から野球部公式Twitterのアカウントを設立し、日々の野球部の活動について発信してきた。チームとしても選手の自立を促すために、プロジェクト方式を設け、打撃、トレーニングなど各項目のプロジェクトリーダーを設け、選手自らが練習メニューを考案し、実力、思考力を高めてきた。そんな柳井高校の生徒たちはほとんどの選手が高校野球で選手人生を終える。そんな柳井高ナインの思いに迫った。
プロジェクト方式で自主性を養う
練習試合の様子 *提供=柳井高校野球部
今年は冒頭でも説明したように、打撃、体重、フィジカル(トレーニング)、メンタルの4項目のプロジェクトがあり、選手は希望するプロジェクトに入り、プロジェクトのリーダーを決め、練習メニューを選手自ら組み立てる方式に変更した。フィジカルリーダーを務めた板垣雄祐(3年)は最初、知識がなく、苦労したという。そこで、柳井はトレーナーがきた時に練習メニューの目的を聞いたり、そしてトレーニングに関する講習会があれば、積極的に参加し、日々のアップ、クールダウン、トレーニングメニューに工夫を加えた。まだまだ勉強することは多いと実感するが、初めの時と比べると、考えながら組み立てができるようになった。
主将の西村貫平は「今までは監督から与えられたメニューをこなすだけで、何も考えていなかったところがあったと思います。こうして自分でメニューを考えるようになって、責任も出てくる。自分たちで考える難しさというのを実感しました」
いざ自分たちで考えてみると、理想通りにいかないことが出てくる。どうすれば、その理想像に近づくことが出来るか。その苦しさを味わいながら、柳井ナインは成長を見せていった。
昨秋、秋季大会では地区大会の代表決定戦に敗れ、失点が多かった投手力が課題となった。冬場に投手陣も考えながら取り組んだことで制球力がまし、冬場の練習でも成長の跡が見えていた。
しかし、新型コロナ感染拡大の影響で、活動も自粛。そして5月20日、甲子園中止が決定。この日は多くの高校球児が悲嘆にくれたように、主将・西村もその1人だった。
「甲子園が中止になって、3日間は個人的に何もしたくない感じで、実際に何もしていませんでした。
その間に監督さん、先輩方、マネージャー、親に励ましの言葉をいただいて、自分には支えてくれた人たちがいることを実感しました。だから前に進んでいこうと思いました。」
[page_break:全員で励まし合い、立ち上がった柳井ナインが目指すのは独自大会優勝]全員で励まし合い、立ち上がった柳井ナインが目指すのは独自大会優勝
紅白戦の様子 *提供=柳井高校野球部
選手たちの激励をしたマネージャーの吾郷夏海(あごう)さんは当時の状況をこう振り返る。
「中止後の翌日に3年生相手に電話する機会があったのですが、落ち込んでいて、どう声をかけようかかなり悩みました。選手たちは子供の時からずっと野球をやってきて、私達が野球に関わるようになったのはこの高校3年間からで、思いの差がかなりあると思うんです」
そこで、同じマネージャーの岩本斐菜香(ひなか)さんと相談した結果、本音を話すことを決めた。
「とにかくLINEで私たちが思っていることを長文のメッセージを送りました。その時、私達の1学年上で大学生となったOBと話し合う機会があったのですが、そのOBから『甲子園にいきたかったというのもあるけれど今あるメンバーで野球ができたこと一番想い出』というメッセージをいただいて、そのメッセージも添えました。私は中学まで野球とは全く違う部活をしていたので、何もルールも知らないところからスタートしたのですが、いつもみんなと野球ができることがいちばん大切なことだと思ったので、今まで選手が頑張る姿を見てきて刺激を受けて成長したことや選手の力になりたいと思いますし、頑張っている姿を見たい。と伝えました」
その後、選手から「ありがとう」「勇気をもらった」というメッセージをもらった。
「やはり本音を語り合うことは良いと思いましたし、選手たちがやる気を出してくれたことが一番うれしかったです」と、吾郷さんの1つの行動が柳井ナインを奮い立たせたのだった。
それから柳井高校は対外試合を行いながら、調整を行ってきた。今年のチームについて西村主将曰くつないで大量点をとっていくチーム。特に長打力もある中川真寿が柱のようだ。
柳井高校は主将の西村を含め、「競技者としての野球は高校野球で終わり」と決意している選手も多い。だからこそ最後の大会となる今大会は「優勝したいです」と意気込む。
初戦の周防大島戦では9対2で勝利し、1回戦突破を果たした。1年間の取り組みの成果を発揮し、この夏は有終の美を飾る。
(記事=河嶋宗一)
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