強打の花咲徳栄を支える技巧派エース・高森陽生。レベルアップの鍵となったのは指先と体重移動だった
昨秋の大会で予選を含めて県大会までで1試合の平均得点が10点を超える破壊力を誇る花咲徳栄。スラッガー・井上朋也にも注目が集まるが、投手陣にも注目すべき選手がいる。それがエース・高森陽生だ。
昨夏の甲子園の明石商戦でも登板し、悔しい経験をしている高森。その経験をバネに昨秋は県大会から関東大会までで6試合に登板してわずか6失点。許したヒットも6試合で18本と1試合で3本ペースで、1失点という計算が立つ。安定感抜群の数字を残す高森は甲子園交流試合の大分商戦でも9回被安打5、失点1の完投勝利を挙げた。
そんな高森に試合後に話を聞いた。
明石商に敗れてから磨き上げたキレとコントロール
高森陽生 ※写真は2019年10月5日 秋季埼玉県大会より
「自分の持ち味である、守備からリズムを作って攻撃に繋げる投球ができて良かったです」
試合を振り返っての高森の自身への評価だ。たしかに初回の三者連続三振をはじめ、1点は失ったものの、打者33人に球数126球と1人辺り3、4球で抑える省エネ投球。そして与四死球1とリズムよくピッチングをしているのがよくわかる。
ブルペンでの段階では抜けることも少々ありながら修正をかけていき、初回には三者連続三振。これで高森の中では「ボールも走っていましたし、キレもあったので『いけるかな』と思いました」と自信を持つことが出来た。
昨夏の甲子園の明石商戦でも登板した高森だが、2回投げて1失点で試合に敗れている。そこから高森は持ち味であったコントロールとボールのキレをさらに磨くべく、トレーニングを重ねた。中でも指先と体重移動は重点的に取り組むようにしてきた。
「ボールのキレもコントロールも最終的には指先の感覚が大事になってきますので、指先を鍛えました。またリリースの瞬間にしっかり力を伝える時にしっかりと体重移動が出来れば、より力を伝えられるので、ブルペンでは重点的に意識しました」
また自身も認める投げたがりの性格を利用して、ブルペンでの投げ込みもすることで指先と体重移動を鍛えてあげてきた。そして見事埼玉大会では優勝を成し遂げて、関東大会はベスト8だったが、甲子園の切符を掴んだ。
しかし、新型コロナウイルスの影響で練習ができない時期ができた。高森は上半身のトレーニングを重点的にやりながら再開を待ったが、選抜が中止など、厳しい現実が待っていた。
「最初は選抜が無くなってショックでしたが、代替試合が開かれることになってからは、そこで『自分たちの野球をやろう』と心に言い聞かせて練習を続けてきました」
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高森陽生 ※写真は2019年10月20日 秋季関東大会より
練習試合も10回程度と少なく、満足に実戦経験が詰めなかったが、ブルペンでは打者を立たせて実際に試合さながらの配球を組み立てて投げるなど工夫をしてきた。そして8月10日に高森は甲子園に帰ってきた。
「去年は先輩たちに連れてきてもらったので、今年は自分が勝たせようと思って投げました」
その言葉通り、1年間で磨いてきたコントロールとボールのキレで大分商打線を封じ込める。試合は6回にエラーで1点は失ったが勝ち越しまでは許さずに勝利に導くことが出来た。有言実行の投球となったが、指揮官の岩井隆監督はベンチから高森をどのように見ていたのか。
「安心してみていられました。ボールのキレも良かったですし、変化球もきっちり動いていました。時々良い当たりが飛ばされましたが、連打はないかなという感じでした」
また、続投するかどうか高森に聞いたときには高森自ら志願したとのこと。「そういうことは言わない選手だったんですけど、そこはエースとしてのところいいますか、成長した部分ですね」と岩井監督は感じ取っている。
高森も続投に関しては自らの強い意志をもって伝えていたことを語っていた。
「監督に聞かれましたので、続投することを伝えました。普段だと登板回数決まっていますが、甲子園と言うこともあってだと思いますが、監督が聞いてくれて。自分は最後の甲子園で最後まで投げたいと考えていたので、投げさせてもらえたことには感謝です」
これで甲子園での戦いが終わったが、花咲徳栄には埼玉県の独自大会が待っている。12日に春日部工との初戦が待っているが、「甲子園で終わりではないので、今回のことを活力に埼玉の独自大会ではもっといい投球をしたいと思います」と意気込みを語った。
1年前の敗戦から磨き上げてきたキレとコントロールを武器に集大成となる独自大会で、高森はエースとしてチームの勝利のために左腕を振り続ける。
(取材=田中 裕毅)
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