東西決戦に有観客の秋季大会。2020年東京都の高校野球3大ニュース
11月15日、東海大菅生が秋季都大会を制し、今年の東京の高校野球は全ての日程を終えた。コロナの感染者が最も多い東京では、誰もがその影響でつらい思いをしてきたが、関係者の努力によって、高校野球の活動は続いた。
おそらく永久に忘れることのできない2020年を、3大ニュースを通して振り返る。
相次ぐ大会の中止
練習再開直後の国士舘の練習模様
2020年は、東京オリンピックイヤーであり、スポーツが盛り上がる1年になるはずだった。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大で、状況は一変した。2月26日、政府からスポーツイベントに関する自粛要請が出され、プロ野球のオープン戦は無観客で行われることが発表された。
そして東京都高校野球連盟も翌27日、春季都大会の1次予選の中止を発表した。1次予選の組み合わせ抽選会の2日前のことである。さらにこの日の夕方、安倍晋三首相(当時)から、全国の小中高校の臨時休校の要請が出された。これが、中止ドミノの始まりとなる。
他の競技の高校の全国大会が中止になる中で、センバツ開催が焦点になった。一時は無観客での開催も模索されたが、3月11日に中止が決定した。2年連続のセンバツ出場が決まっていた国士舘は、昨年は初戦で敗退しているので、今回への思いは強かった。それだけに無念さはあったが、まだ夏があるということで、気持ちを切り替えるしかなかった。
春季都大会は、1次予選は中止になったものの、秋季都大会出場の64校だけで行う予定であったが、東京オリンピックの延期が決まる中、小池百合子東京都知事のロックダウン発言や、外出自粛要請が出され、3月26日に、春季都大会の中止も決まった。
さらに緊急事態宣言が出され、4月26日に高校総体の中止も決まった。そして5月20日に、全国高校野球選手権大会と地方大会の中止が発表された。緊急事態宣言で学校が休校になっている中の、あまりに残酷な事態であった。
独自大会開催と東西東京決戦
選手権大会は中止になったが、東京都高校野球連盟は独自大会を開催し、真剣勝負の場を用意した。5月25日に緊急事態宣言は解除されたものの、東京都教育委員会は部活動には慎重な姿勢をとっていた。
東京都高校野球連盟とも厳しいやり取りがあった末、当初は7月4日開幕予定であった大会は、18日に開幕することで開催にこぎつけた。開催への強い意志がなければ、開催は不可能であった。
この大会は原則無観客で行われたが、選手の家族やスカウトなどの関係者は観戦できた。さらにこの大会で画期的なのは、東西東京大会の優勝校による、東西決戦が行われたことだ。
夏の東京ナンバーワンを決める戦いが行われるのは、東京が1代表であった1973年以来である。また甲子園で3度、東東京代表と西東京代表の対戦があるが、東京で東西の優勝校が対戦するのは、史上初である。
夏に続き秋も優勝した東海大菅生
東大会優勝の帝京と西大会優勝の東海大菅生は、気持ちのこもった熱戦になった。
帝京の先発・田代涼太は、最高の投球をして、東海大菅生打線を抑え、2対0と帝京が2点をリードして9回表の攻撃を迎える。
二死二塁で、田代は中前安打。二塁走者が本塁を突いたが、新チームの主将になる中堅手の栄塁唯が、矢のような本塁送球で刺す。しかしこの送球で栄は右腕を負傷し、秋季大会では試合に出られなかった。その裏東海大菅生は、森下晴貴の三塁打で同点に追いつき、臼井直生の中前安打でサヨナラ勝ちした。
この大会、3年生に配慮するチームのある中で、東海大菅生も帝京も実力主義を貫いた。それでも高校生活最高の投球をした帝京の田代、最後に勝負決めた東海大菅生の森下や臼井……。甲子園はないけれども、3年生が輝いた夏だった。
有料観客試合で行われた秋季都大会
高校野球ファンにとっては、今年は試合を観戦する機会がなかったが、秋季都大会は有料観客試合として行われた。首都圏で今年、一般の人が観戦できたのはこの大会だけ。感染者の多い東京で、一般開放ができたのは、夏の独自大会での実績と、既に観客入れて行っている東京六大学野球などからノウハウを得ることができたことが大きい。
入場時の検温や、メールアドレスの提出など、感染拡大防止のための協力を求められたが、球場には東京以外からも観戦に来た人が少なからずいた。特に神宮球場で行われた準決勝と決勝戦は、早朝から長蛇の列ができた。
入場者の上限は、準々決勝までは5000人であったが、準決勝からは1万人になった。しかし、東京の1日の感染者が連日300人を超える中、準決勝、決勝戦とも観衆は5000人だった。やはり感染を警戒する人がいるのも確かだ。それでも有料観客試合は、高校野球が日常の姿を取り戻す第一歩になったはずだ。
またコロナの感染の拡大が続いている。来年についても状況は不透明だが、誰もが高校野球を楽しめる年になってほしいものだ。
(記事=大島 裕史)
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