Interview

両親はナイジェリア人。なぜイヒネ・イツアはNPB12球団のスカウトが注目する大型遊撃手へ成長できたのか 

2022.06.08

 ドラフトにおいて人気になる選手のタイプのひとつに、俊足強打強肩の大型遊撃手が挙げられる。これは昭和の時代からずっと続いてきた傾向だ。今年はそんな高校生の大型遊撃手が愛知県にいた。イヒネ イツア内野手(3年)だ。

 両親はナイジェリア人。愛知県で生まれたイヒネは184センチ、83キロと恵まれた体格から、高校通算14本塁打の長打力を持つ。それだけでなく、30メートル走では3.9秒台を計測する俊足と強肩も武器にした守備も持ち味だ。

 アフリカにルーツを持つ野球選手はプロ、アマ通して見てきたが、体型はまるで陸上選手という表現がピッタリ当てはまる。足が長く、スタイルも抜群と形容できる高校球児を久しぶりに見た。

 そんなイヒネに対して、12球団のスカウトが熱視線を送り、MLBのある球団も視察しているという。夏を前に、注目度が急上昇すること間違いなしのイヒネの成長ストーリーに迫っていく。

中学時代は控え選手だった

両親はナイジェリア人。なぜイヒネ・イツアはNPB12球団のスカウトが注目する大型遊撃手へ成長できたのか  | 高校野球ドットコム
イヒネ イツア(誉)

 この春からスカウトの間で一気に注目度が上がったイヒネ。スタンドから見る公式戦だけでなく、グラウンドレベルで見ることができる練習からも多くのことが分かる。

 愛知県犬山市ののグラウンドへ足を運べば、真っ先に目につく。キャッチボールから明らかにリストの強さが分かる強い球を投げていて、持ち替えも速い。ノックに入ると、長い足を生かして、深い位置からでも追いついて鋭い送球をする。打撃練習では、次々と本塁打性の当たりを見せるのはもちろん、左中間にも鋭い打球を飛ばす。しかも使用しているのは低反発バットだ。

 スカウトが注目するのも頷けるパフォーマンスだ。両親がナイジェリア人で、姉1人、兄2人の末っ子。姉は陸上、長兄はバレーボール、次兄は野球とまさにスポーツ一家の環境下で育った。イヒネはサッカーをやっていたが、友達に誘われたのがきっかけで野球を始めた。

「やってみたら面白いと思ったので、じゃあやってみようと」と小学校3年生から野球を始める。「足の速さには自信がありました。小学校時代の運動会では、常にアンカーで、ずっと一位でした」。俊足を生かして遊撃手と中堅手をこなしていた。

 萩山中では、軟式野球クラブの名門・東山クラブに所属するも、不動のレギュラーというわけではなく、出場するときは6番だった。

「センターを守っていましたしたが、全然パワーはなかったですし、打球も飛ばなかった打者でした」

 当時の4番には日本航空石川に進んで主砲に成長している内藤 鵬内野手(3年)がいた。当時の中学球界では無名の存在。そんな中、イヒネの身体能力の高さ、将来性の高さを評価して一番最初に声をかけたのがだった。その選択は正解だった。

[page_break:徹底としたフィジカル強化で大化け]

徹底としたフィジカル強化で大化け

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イヒネ イツア(誉)

 はこの時からフィジカル強化を徹底的にやるチームに移行していた。グラウンド下の雨天練習場には手作りのウエートルームがあり、器具を装備している。エルゴメーター、1キロ以上の縄跳び、ボックスジャンプ、パルクールトレーニングなど筋力アップだけではなく、アジリティ系や、身体操作系のトレーニングなどあらゆるメニューをこなす。

 イヒネは最初はかなりきつかったと振り返る。それでも必死に食らいついていくうちに、打撃も、守備も伸びていった。寮に入り、食事を多めに摂った結果、入学当時、67キロだった体重が、83キロまで増量。プレーも力強くなり、「中学の頃は力も全然無くて、そんな飛ぶようなバッターではなかったので、だいぶプレースタイルが変わりました。フィジカル練習をやってきたこともあり、肩もかなり強くなったので、よかったと思います」と実感もある。

 他の選手と比べても体つきが違う。誉の選手たちは下半身が太い選手が多い。対照的にイヒネは遠目で見ると細いように見えるが、間近で見ると、ハムストリングスが大きく発達。陸上競技で活躍するアフリカ系アメリカ人選手のような筋肉の発達具合だった。脚力も高くなった。誉では30メートル走を導入。電動計測でチームの平均は4.1秒だが、イヒネは3.9秒を計測している。チームメイトの誰もが「ベースランニングはめっちゃ速いです」と口を揃える。そのスピードを生かし、高校2年から遊撃手がメインとなる。

「最初は分からないことがいっぱいあって、難しかったのですが、覚えてきて、動けるようになりました」

 長い足を生かし、三遊間の深い位置に追いついたり、二塁ベース寄りの打球にも颯爽と追いつく。その動きは軽やかだ。守備面で意識することについて、イヒネはこう語る。

「指導者の方からはグラブさえ地面につけば、落としすぎる必要はないと言われたので、それを意識して練習しています」

 その意識で守備を上達させることができた。

[page_break:打撃も急成長。「プロ野球選手」にはめっちゃなりたい]

打撃も急成長。「プロ野球選手」にはめっちゃなりたい

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イヒネ イツア(誉)

打撃については打撃指導を主に行う安陽希部長とのマンツーマン指導で進化した。

「部長とは、ずっと一緒に考えてやっています。バレルスイングを1年半くらいやってきて、まだ全然課題ばかりですが、上手くいきそうな感じがします」

 現在は高校通算14本塁打。ドラフト候補として騒がれている打者の中では、それほど多くはないが、低反発バットでも鋭い打球を飛ばし、左中間にも鋭い打球を飛ばすことができている。

「今はゴロを減らすことを意識しています」

 打撃練習も安部長とともにタイミングの取り方に挑んできた。事前に見た打撃映像と比べても、だいぶゆったりとしたステップで、力強く振り抜いていた。試行錯誤の努力は実を結んでおり、愛知県大会、県大会後に行われた全尾張大会でも結果を出して、スカウトの評価を上げている。

 高校での取り組みがなければ、ここまでの成長はない。

「フィジカル強化に加え、しっかりと振り抜く高校の取り組みがあったから成長できたと思います」と感謝する。の矢幡真也監督も「中学時代も、入学当初も目立った存在ではなかったです。ただ将来性はある選手だと思っていました。取り組みも良い選手ですし、成長できると思いましたが、まさかここまで高評価をいただくとは…」と指揮官も驚きの成長を見せている。

 もちろん高卒プロ入りの夢を持っている。

「なりたいです。プロになりたい気持ちは、めちゃめちゃあります!」

 そして今後の意気込みを語った。

「守備では強い送球でアウトにして、バッティングでは長打も打てて、欲しいところでホームランを打てる選手なりたいです」

 夏も近づいてきた。気心がしれた仲間たちとともに1日でも長く野球をしたい思いを語った。

「みんなと1試合でも多く戦って、甲子園で1勝することが目標。達成して甲子園で戦えるチームにしていきたいです」

 高い意識を持ち続け、NPB球団が注目するまでになった逸材はこの夏、大ブレークを果たし、3年ぶりの甲子園出場をつかむ。

(取材:河嶋 宗一

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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