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体温調節のしくみと体の冷却方法

2023.07.03

こんにちは、アスレティックトレーナーの西村典子です。

前回のコラムでは暑さになれるための暑熱馴化(しょねつじゅんか)と脱水や水分補給についてお話をしました。今回は体温調節のしくみと、暑い環境下で実践したい体の冷却法についてお話をしたいと思います。夏の大会など、暑い中でプレーを続けているとどうしても体温は上昇し、その体温が発汗などでうまく調節できないと体に熱がこもって熱中症のような症状をもたらすことがあります。体温上昇をなるべく抑えるために実践したい体の冷却について体の外からアプローチする方法と体の中からアプローチする方法、それぞれについて解説します。

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熱産生と熱放散のバランス

体温調節のしくみ

私たちは、脳の中(視床下部:ししょうかぶ)に体温調節機能を備えており、常にほぼ37℃の体温を維持するように調節されています。身体活動を行うと体の中で熱を生み出しますが、この熱を体からうまく逃がしてバランスをとるように働くことがわかっています。熱を生み出すものとしては、体を動かさない状態でも発生する基礎代謝をはじめ、体を動かすことによって起こるもの、ホルモンや細胞代謝による影響などがあげられます。あまり動かない安静時は肝臓や脳、腎臓などの臓器でより多くの熱を生み出しますが、スポーツを行うときは筋肉で大量の熱が発生し、体温が上昇します。

一方、熱を逃がすものとしては温度の高い方から低い方へ熱移動をする「輻射(ふくしゃ)」、直接的な接触によって起こる「(熱)伝導」、風や流水などを介して起こる「対流」があります。また汗をかくことによって汗が蒸発したときに熱を奪う「気化」も起こります。熱を生み出すこと=熱産生と、それを逃がすこと=熱放散のバランスが崩れて、熱産生が上回るようになると、体に熱がこもって体温が上昇し熱中症のリスクが高まります。反対に熱放散が上回ると体温が奪われて体が冷え、低体温症を引き起こすことになります。

体温上昇を抑える体の冷却

体温調節のしくみが何となく理解できると、運動時にはどうしても体温が上昇しやすいということがわかると思います。それに加えて外気温が高く、湿度が高くて汗が蒸発しないような環境では、通常の体温調節機能だけでは追いつかないことも考えられます。そこで暑い環境では積極的に体を冷やすことが推奨されています。実際に体を冷やすときは「冷却方法」「タイミング」「冷却時間」というこの3つを意識して行うようにすると良いでしょう。

冷却方法は「体の外から冷やす方法」と「体の中から冷やす方法」に分けられます。体の外から冷やす方法の例としては、冷水浴やアイスパック、うちわや扇風機など送風を利用したもの、手のひら冷却法などがあげられます。一方、体の中から冷やす方法としては冷たい飲料(水、スポーツドリンク等)を用いて体の内部にアプローチします。最近は氷をシャーベット状にした飲み物であるアイススラリーが注目されています。体を冷やすことと同時に水分、ミネラル分、糖質の補給なども行うことができるからです。

冷却のタイミングは運動前に行ってあらかじめ体温を下げておくことや、試合の状況にあわせて行う場合、運動後の疲労回復を目的として行う場合とそれぞれ目的が変わります。冷却時間は体温や筋温を保つために時間を調整し、行うタイミングによっても変化します。今回は体の外から行う冷却法(手のひら冷却法)と体の中から行う冷却法(アイススラリーの活用)について、詳しくみてみましょう。

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手のひらの動静脈吻合を冷やすことで全身の冷却につながる

手のひら冷却法

体の外から冷やす方法として注目されているのが「手のひら冷却法」です。手のひらには動静脈吻合(どうじょうみゃくふんごう)と呼ばれる動脈と静脈を結ぶバイパスのような役割をもつ血管があります。普段は閉じられている血管ですが、体温の上昇に伴って血管が開き、大量の血液が流れるしくみを備えています。この部分を冷やすことで血液を適度に冷却し、深部体温(脇の下ではなく、直腸で測定された体の内部体温)を下げる効果が期待できると言われています。動静脈吻合は手のひら以外にも足の裏や顔の頬などにも多く存在するため、こうした部分も冷やすようにするとより深部体温が下がりやすくなると考えられます。

手のひらを冷却する場合は、無理なく手をつけていられる程度の冷たい水(10~15℃程度)に5~10分ほど手のひらを浸しておくと良いでしょう。氷水のように冷たすぎる水はかえって刺激が強くなりすぎて血管を収縮させてしまい、血流が悪くなってしまいます。適度に冷えたペットボトルなどを使っても良いでしょう。ただし脱水の症状や熱中症の疑いがある場合には、手のひら冷却法では間に合いません。脇の下や股の付け根などを中心に全身をすみやかに冷却して深部体温を下げるように対応することが優先されます。

アイススラリーの活用

アイススラリーは、水と細かい氷が混ざってシャーベット状になった氷飲料です。アイススラリーは氷が水に溶けるときに体内の熱をより多く吸収することができるため、冷たい飲み物よりも高い冷却効果が期待できると言われています。手軽に準備する際は市販品を凍らして準備しておくことでも良いですし、自宅で作る場合はスポーツ飲料を凍らせて氷を作り、その氷とスポーツドリンクを3:1~2程度の割合でミキサーにかけるとアイススラリーに近いクラッシュドアイスを作ることができます。作ったクラッシュドアイスは保温性のある魔法瓶などに入れておくと、練習や試合会場などに持参することができます。

アイススラリーの注意点としては一度に大量に飲むと、胃腸に負担をかけ、人によってはお腹を壊すなど不快感を覚えるケースが想定されることです。アイススラリーは冷たい飲料よりもさらに低温であり、深部体温を下げるためにはある程度の量を飲むことが必要であることもまた選手にとっては負担となるかもしれません。アイススラリーを適量とりつつ、他の冷却法もあわせて行うようにすると、アイススラリーの特徴を活かしながら体を効率よく冷やすことにもつながります。

今回は体温調節のしくみや体温上昇を抑えるための体の冷却方法などについてご紹介しました。特に暑い環境で練習や試合を行うときは、ぜひこのような体の冷却を実践し、熱中症の予防に役立ててくださいね。

《参考ガイドブック・書籍》

競技者のための暑熱対策ガイドブック【実践編】(ハイパフォーマンススポーツセンター)

スポーツ活動中の熱中症予防ガイドブック(日本スポーツ協会)

・「スポーツ現場における暑さ対策」長谷川博・中村大輔 編著/ナップ

【体温調節のしくみと体の冷却方法】

●体温は熱産生と熱放散のバランスによって37℃前後に保たれる
●体温上昇を抑える体の冷却は「冷却方法」「タイミング」「時間」を考慮して
●《体の外から冷やす方法》冷水浴やアイスパック、送風、手のひら冷却法など
●《体の中から冷やす方法》冷たい飲料(水、スポーツドリンク等)の摂取など
●手のひら冷却は冷水(10~15℃程度)に5~10分ほど浸す
●アイススラリーに似たクラッシュドアイスは自宅でも作ることができる

文:西村 典子
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この記事の執筆者: 田中 裕毅

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