大阪桐蔭を下すなど強打を発揮した智辯学園 逸材揃いの充実の戦力で夏に挑む
春の近畿高校野球大会を制した奈良の智辯学園。1回戦で大阪桐蔭(大阪)を8対6で下すと、準決勝の市立和歌山(和歌山)戦では10対3で7回コールド勝ち、決勝の金光大阪(大阪)戦では10対0と立て続けに圧勝した。
昨秋は県大会準決勝で敗れるなど、センバツ出場を逃していたが、夏は全国制覇も十分に狙える戦力を誇っている。今回は夏の甲子園初優勝を目指す智辯学園の現チームの歩みや注目選手を紹介していきたい。
昨年のチームは秋に県大会で優勝するも近畿大会で初戦敗退。夏の奈良大会は準決勝で敗れ、春夏ともに甲子園に出場することはできなかった。
それでも強肩捕手の高良 鷹二郎捕手(3年)、左の強打者・松本 大輝外野手(3年)、投手と内野手をこなす中山 優月投手(3年)、走攻守にレベルの高い外野手の川原崎 太一外野手(3年)など、下級生からレギュラーとして活躍している選手が多く残り、秋の大会で躍進が期待されていた。
しかし、県大会の準決勝で天理に1対4で敗戦。昨秋の近畿大会には奈良県から2校しか出場できないため、この時点でセンバツへの道が閉ざされた。
「実力自体はあったと思いますけど、構えてしまうというか、精神的な部分は天理さんと雲泥の差があったのではないでしょうか」と振り返る小坂将商監督。能力はありながらも、それを発揮できないのが大きな課題だった。
そうした背景もあり、冬場の練習で小坂監督は、「まず、負けたくないという気持ちをしっかり持って取り組め」と選手たちに奮起を促した。その中でも力を入れたのがウエートトレーニングと食育。朝は700グラム、夜は1100グラムの米を食べることをノルマとして、体づくりに取り組んできた。
「ウエートトレーニングや食育のおかげで遠くに飛ばしたり、逆方向に遠くに飛ばしたり、そういう能力が付いたと思います」と高良は冬場の取り組みの成果を実感している様子。体づくりに加えてバットを振る量も増やし、強力打線の土台を作りあげてきた。
冬に蒔いた種は春になって花開く。県大会では決勝で天理にリベンジして優勝を果たすと、近畿大会でも初戦で大阪桐蔭に打ち勝った。
大阪桐蔭戦で打線に火をつけたのが1番の松本だ。1回の第1打席で4得点の口火を切る三塁打を放つと、2回の第2打席には右翼へのソロ本塁打で大きな追加点をもたらした。
「自分の結果でその試合の流れが変わると思うので、1番バッターとして良い打球を打って、チームを勢いづけていこうという気持ちでいつも打席に入っています」とリードオフマンとしての心構えを語る松本。大阪桐蔭戦ではそれを実践する大活躍だった。
近畿大会を振り返り、「日に日にヒーローが変わったので、そこが指導者としては一番嬉しいことですね」と話す小坂監督。準決勝の市立和歌山戦では先発の青山 輝市投手(2年)が5回1失点と好投、決勝の金光大阪戦では8番の山家 拓人内野手(3年)がランニング2点本塁打を放つなど、主力選手以外の活躍が目立った。
「秋までは誰かが打ってくれるだろうとか、誰かが抑えてくれるだろうとか、人任せな人が多かったですけど、冬を越えて自信をつけて、自分がやるという気持ちが増えたのがチームにとってプラスかなと思います」とチームの成長について話す中山。底上げは確実に進んでいる。
1年生の活躍もチームの活性化を後押ししている。特に近藤 大輝内野手は近畿大会の全試合に6番・三塁手で先発出場。レギュラーの座を確固たるものにしている。「『若さを出せ』と常に言っているので、積極的に振っていることで良い結果が出ているんじゃないですか」と小坂監督。指揮官の期待に応えるように結果を出し、夏もスタメンで出場する可能性が高そうだ。
力のある3年生の存在に加え、1年生の台頭が見られた一方、「2年生がもう少し出てほしい」と小坂監督は注文をつける。力はある学年と見られているだけに先輩を押し退けてでも出てきてほしいと思っているようだ。2年生からも主力になるような選手が出てくれば、選手層はさらに厚くなるだろう。
夏に向けて小坂監督は、「守備と走塁にはスランプがないので、そういったところをマイナスにならないようにだけしたいと思います」と守備と走塁の強化を課題に掲げている。「春の大会はチームとして守備の面で課題だったので、送球の精度であったり、捕球の精度であったり、そういうところを夏に向けて見直していきたいと思います」と高良が話すように、シートノックでは選手同士で送球の精度を指摘し合うなど、意識の高さが見てとれた。
また、攻撃面について小坂監督は毎回のように1点ずつ取れるような野球をしたいと考えている。
「ツーアウトからでも点を取れるような野球をしたいです。それを大阪桐蔭から学びました。2回から5回まで全部2アウトから1点取られましたから。そこは試合運びの上手さだと思います」
打線に関しては松本と中山が軸となってくるが、「松本はまともに勝負してもらえないと思います」と小坂監督はチャンスで松本が歩かされることも想定している。春は1番で起用されたが、松本の後ろを誰が打つかが重要なポイントとなりそうだ。
投手陣は最速146キロ右腕の中山が柱となる。打っては中軸を任され、遊撃手もこなすが、一番自信があるのは投げることだという。タフな役回りを任されているが、「注目されるので、しんどいというよりはモチベーションとなってやりがいを感じています」と自身の立ち位置を前向きに捉えている。
「バッティングでは中軸を打たせてもらって、チャンスで回ってくることが多いので、そこで一本出したい。ピッチングではどんな場面でも抑えるのが良いピッチャーだと思うので、どんな場面でマウンドに上がっても抑えられるようにと思ってやっています」と投打での心構えを語ってくれた。投打で超高校級の実力を誇るだけに、今後はどちらで勝負していくのかにも注目していきたい。
充実した戦力を整え、いよいよ夏の戦いに挑む。「夏はやってきたことをしっかり出すだけ。甲子園を目指す気持ちをどのチームよりも持ってやっていきたいと思います」と意気込みを語ってくれた高良。智辯学園は2016年春に全国制覇の経験はあるが、夏の甲子園優勝はまだなく、一昨年夏の準優勝が過去最高成績だ。その時に1年生としてボールボーイやスタンドで見つめていた現3年生が中心となって全国制覇を目指す。
(記事:馬場 遼)